2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年5月31日

 サドル師がイラク政治の最前線に戻ってきたことを脅威と考えないことはむずかしい。米国によるイラク占領期間中の殆ど、サドル師は目標達成のために暴力に頼った。サドル師の民兵組織Mahdi Armyは、米国が支援する政府を不安定化させ、米兵士を殺害するために、グリーン・ゾーンに砲弾を撃ち込み、2005年から2006年の間の残酷な宗派戦争において指導的役割を果たした。議会におけるサドル師の陣営は、2010年のマリキの首相留任を支持するなど、キングメーカーの役割を果たした。そして、サドル派に運営されている省庁は、サドルが今非難している縁故主義のよい例である。

アバディ首相の計画支持するサドル師

 2014年にサドル師は政治から手を引くと宣言、それ以来自らを、宗派によらず貧者の味方をする宗教的指導者であるとしている。一年前、サドル師は、有能な大臣を任命し、官僚の数を減らし、汚職と戦うために、民族的割り当てに基づく政府のシステムを変革しようとするアバディ首相の計画を支持した。

 これらの変化は何としても必要である。イラクは、毎月30億ドルの予算不足を埋め合わせるために、外貨準備を取り崩している。イラクの二大都市、ファルージャとモスルはISに支配されている。先週、シーア派中心の政府を率いるアバディ首相は、何とか5人の新大臣の承認を議会から得た。他の大臣ポスト指名者に対する公聴会の開催が拒否されたことが、今回のグリーン・ゾーンにおける抗議を引き起こした。

 サドル師は5月1日、支持者たちにグリーン・ゾーンから離れるよう指示し、暴力を控え民族主義のスローガンを唱えるよう求めた。サドル師は声明において、議員が政治改革の妨げになり続けるならば、彼の支持者たちは新たな選挙を求めるだろう、と警告した。サドル派がこれまでのところ暴力をかなり控え、彼らの集会が宗派的でないことには勇気づけられる。サドル師がこのやり方を続けるならば、街頭抗議が、政府が必要とする改革を議会に強いるという政治的支援をアバディ首相に与えることになるかもしれない。

出典:‘Turbulent Politics in Baghdad’(New York Times, May 2, 2016)
http://www.nytimes.com/2016/05/03/opinion/turbulent-politics-in-baghdad.html?ref=opinion&_r=0

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