足立倫行のプレミアムエッセイ

2016年6月4日

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 さて今回も、母のランチは食欲旺盛だった。いなり寿司、ミニちらし丼、卵厚焼き、茶碗蒸し、味噌汁をペロリとたいらげ、食後のバニラアイスもきれいに片付ける。

 「おいしかった?」

 「おいしかったよ。堪能した。あ、あれは○○じゃないか?」

 ○○は私の娘の名前である。セーラー服を見かけるとすぐに○○かとなるが、娘がセーラー服を着ていたのは30年ほど前だ。

 「じゃあれは、△△か?」

 △△は1年前まで同居していた弟の名前。施設の外で出会うジャージ姿の男は、若くても年寄りでも全員が△△に見えるらしい。

 「満足したね。では帰ろうか」

 母は杖を引き寄せて立ち上がった。ズボンは最近お気に入りの黒いダブダブのもの。私は一瞬、最後のホットパンツ姿はいつだったろうかと思った。

  
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