2024年7月15日(月)

したたか者の流儀

2016年6月8日

ニミッツの発した鶴の一声

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 5日間もサメの海に漂えば、助かる者も死んでしまう。艦長は、この事件で軍法会議マターとなった。日本降伏の日にやって来たおよそ千通の戦死通知は、社会問題となったことであろう。一旦は、艦長の逮捕で沈静化したかに見えたが、艦長が有罪だとするとそのような状況にした作戦部の責任問題に発展する。最高責任者は、あのチェスター・ニミッツ提督だ。艦長は、対潜水艦対策を怠ったなどとして、一部有罪となったが、ニミッツの発した鶴の一声で、無罪釈放となり、その後、海軍では大変名誉な称号である「提督」を名乗れる少将に昇進したのち、退役している。結局自殺したのは、前回書いた。

 有罪なのに無罪。唐突な昇格と退役。不思議な手続きがあったと推察される。その後、映画「ジョーズ」を見た少年が動き、この事件の真相解明に挑んだ。結果として、艦長の完全無欠の名誉回復がビル・クリントンによってなされている。

 とはいえ、生存の将兵からの好意的発言や、米国に召還された伊58の艦長から塩もあったが、事実はインデアナポリス艦長が正しい義務を果たしたと想像できる。では、なぜ多くの犠牲者が出たのであろうか。子どもの頃、水雷艦長という遊びをした人は覚えていると思うが、潜水艦に対して勝てるのは、駆逐艦だ。英語で、デストロイヤーと呼ばれる。すなわち潜水艦破壊船だ。駆逐艦の一隻も随伴させなかったのであろうか。

 また、航路を追跡していれば音信不通となっても直ちに場所の特定ができることとなる。

 話は飛ぶが、タイタニック号の遭難は天災としても、救援はできた可能性は高かった。お祝いの電報殺到し、救難信号が出なかったとか、至近の船の無線士が、長く離席していたなど、不運が重なったことにもよるようだ。

 ではインデアナポリス号事件は、いったい誰の責任になるのであろうか。原爆輸送作戦そのものに不備があるように見えるがいかがであろうか。また、この艦長の父親は元海軍大将であり、海軍の名門の出で、ニミッツ提督も特別な配慮が必要であったのかもしれない。

 最近、流通大手でオーナーと経営トップの対立があったが、遠因にご子息への承継問題の有無も言われている。また、退任した自動車製造のトップも、父親はグループの大御所であった。父親は息子の器を知っている場合が多いが、政治家も含めて、キーパーソンは“お母さん”なのかもしれない。

 彼女たちの一途な思いが、器でない息子の昇進を実現させてしまうことが多いように見える。インデアナポリス号の艦長の母親が、父親の元部下ニミッツに言った、“あの子は提督になれるのでしょうね”という声が聞こえる。こだまかもしれないが。

  
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