財政再建は景気を良くする?
最後に、筆者が財務省の新人講習で使っている講義ノートの内容を御紹介しましょう。少し難しいですが。
世界各国の統計を調べてみると、財政赤字が減っている国ほど景気が良くなっています。これを見て、私たちは「景気が良くなると企業が儲かって法人税を払うようになるから、財政赤字が減るのだろう」と考えます。それは間違いではありません。
しかし中には、「財政赤字が減ると、政府が借金をしなくなる。そうなると、金利が下がる。世の中の金利は、借りたい人と貸したい人のバランスで決まっているからだ」「金利が下がると企業が借金をして工場を建てるようになり、景気が良くなる」と考える人もいます。これも正しいのです。
理屈の上ではどちらも正しいのです。AがBの原因であり、同時にBもAの原因なのです。では、どちらが大切でしょうか? それを統計から知るのは簡単な事ではありません。私は長年の経験と勘から圧倒的に前者が重要だと思っていますが、皆さんは財務省の職員になったわけですから、後者の考え方をするようになっていくのでしょうね。
そうなると皆さんは、「日本でも増税をして財政赤字を減らせば景気は良くなる」と思うかもしれません。でも、それは違います。なぜ違うのか、考えてみましょう。
答えは、「日本の長期金利は既に非常に低いので、財政を再建しても長期金利はこれ以上下がらないから」です。最後は引っ掛け問題となってしまい、因果関係とは別の所に回答があったわけですが、ここで気をつけて欲しいのは、諸外国の統計を見て日本の事を考える際には日本の特殊性を考えましょう、ということです。
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