私が巡礼を開始して3日目に巡礼宿のバーでビールを飲んでいたエリアスと言葉を交わしたのが最初だ。人懐っこい明るい性格で少しおしゃべりしただけで彼に惹かれるものを感じた。彼とは78日間の道中で5~6回出会っているが毎回彼の新しい一面を発見して驚いた。
彼はフランス語、ドイツ語、スペイン語、英語を全く不自由なく話す。食事のテーブルは多国籍メンバーとなることが多いが相手により言語を使い分けるのである。
そしてエンターテイナーでもある。ピアノやギターがあれば弾き語るのである。しかもクラッシックからポップスまで幅広い。そしてスケッチや似顔絵も相当な腕前だ。
さらに凄いのはどんな話題でも相手の興味に合わせて会話を広げてゆく柔軟な知性である。キリスト教、仏教から政治経済、歴史文化と自由自在である。
そして周囲の人間に対する細かい気配。例えば数人でビールを飲んでいて誰かのグラスが空になりそうになると「お替りいかが?」とさりげなく聞いてウェイターに声を掛けるのである。常に彼の周囲には人が集まり笑いが絶えない。初対面の人間でも長年の知己のように親しみを感じてしまう。
見渡す限り麦畑が広がる
スイス人の養父母の教育の賜物であろう。子供のできなかった敬虔な養父母はエリアスを神の与え給いし宝物として愛情を注ぎこんで育てたのであろう。そして自分たちの信じる理想をエリアスに託したのではないか。
サンチアゴ巡礼の意義は一言では表現できないが、エリアスのような人間に出会えるということは間違いなく一つの大きな意義であろう。
⇒第10回へ続く
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