神様にまつりあげられた牛、食べるどころか触るのも忌み嫌われる豚、ペットになったり食用にされたりする馬や犬、アメリカで人気1位に出世した牛肉、さらには、遺伝的に飲めない人がいるミルク(「ミルク・ゴクゴク派と飲むとゴロゴロ派」)、昆虫、ペット、人肉食にいたるまで、世界の食文化の謎に深く広く分け入った。
エコロジカルな制約と条件は地域によって異なる
著者マーヴィン・ハリスは、本書カバーによると、1927年ニューヨーク生まれ。コロンビア大学、フロリダ大学で教鞭をとる文化人類学者である。
訳者板橋作美氏によると、「多くの人類学者、とりわけ日本の人類学者にとって、考えただけで吐き気をもよおす、忌むべき、タブー視された、人類学者の部類に入れるなど身の毛のよだつ、いかがわしく、うさんくさく、おぞましい存在」なのだという。
「アメリカではスーパーで山積みされて売られているほどよく読まれているのに」、人類学者からは「読むに適さない」、「買うに適さない」とみなされているらしい。
人類学者コミュニティによる嫌悪の理由は知らないが、私には、本書の論理展開は科学的、論理的であり、一般読者に非常にわかりやすく書かれていると感じられた。
自分のおかれている文化的見地から良し悪しを判断したり、好悪の感情を抱いたりしやすい食文化の問題において、それらの罠に落ちることなく、冷静に、証拠に基づいて一貫した理論を展開してみせた科学的態度には、好感を抱いたほどだ。
それが「最善化採餌理論」である。
各章で、ある食物が食べられたり食べられなかったりする理由を、人類学、経済学、医学、栄養学、生物学などの知見を駆使して詳細に検討する。その結果、どの証拠も、「最善化採餌理論」を裏づけることになる。
この理論をおおざっぱにまとめると、「好んで選ばれる(食べるに適している)食物は、忌避される(食べるに適さない)食物より、コスト(代価)に対する実際のベネフィット(利益)の差引勘定のわりがよい食物」だということだ。