オトナの教養 週末の一冊

2016年7月7日

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中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

ジャーナリスト

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より読売新聞東京本社メディア局編集部次長。『御社の寿命』、『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』、(いずれも中央公論新社)など

 警視総監など警察の要職をつとめた著者だけにその言葉は重い。著者は〈自身で直接、某国情報機関員をリクルートしたことがある〉と書いているが、そうした経験も踏まえて「ヒューミント」と呼ぶ人から集める情報の大切さを説く。つまり高度な機密情報の「取材」である

 リクルートするノウハウは何か、この種の工作にどんな人材が適しているか、などが課題になるが、著者は「自前の情報があってこそ」と説く。

 〈各国(友好国)との間柄は、例えていうと“同業組合”のようなものだ。組合の決まり事がいろいろある。ギブ・アンド・テイク(交換)の原則である〉

 〈手持ち情報がない時は、あとから“お返し”するのがこの世界でも常識となる〉

 こうしたことが自前の情報機関を持つべき理由だとしている。同時に自国の防諜体制をいかに作り上げるかが課題になることも指摘する。

 具体的な情報収集にあたっての手法や、それに関連して旧ソ連や中国などが得意とする「ハニートラップ」の詳細などについても詳しく述べられている。人間の持つ様々な弱みや欲望を突く形で情報を取ろうとする相手が攻めてくることがわかる。上海総領事館で起きた館員自殺事件など過去の具体的な事例なども示されている。また著者がある大物政治家に指南したハニートラップを受けないための方法なども興味深い。

待ち構えているであろう長い道のり

 このほか、数あるスパイ小説の中でもフレデリック・フォーサイスとジョン・ル・カレのスパイ小説が考えさせられるという指摘も興味深い。ル・カレが一時期、情報機関に身を置いていたということは本書で初めて知ったが、小説ながらある種のリアリティーをもっていることはそうした背景を知れば理解も深まる気がする。

 さらに、映画「ジャッカルの日」が、かつて警視庁が要人警備の警察官の士気を高めるべく、封切り前に映画館から借りてきて警備部隊に見せたことや、旧ソ連のKGBもそれを見て参考にしたことなども紹介されている。スパイ小説は現実とはだいぶ違うはずだが、映像にすると、また別の意味で参考になる部分もあるということだろうか。最近はやりの「見える化」の効用なのかもしれない。

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