2024年11月22日(金)

世界の記述

2016年8月14日

“最後のとりで”を崩しにかかった政権

 議席の過半数を占める現政権は法案を議会通過させることが可能だ。拒否権を行使できる大統領も現政権の息がかかる。最後のとりでは憲法だ。ポーランドには憲法裁判所がある。法律の合憲性チェックと人権を保障する機関なのだが、PISは政権の座に就くと大統領をまきこみ、自党の息のかかった裁判官を同機関にねじこもうとした。

 この一幕で国民の怒りは絶頂に達した。昨年10月には1989年の共産党政権崩壊以来初めて、「民主主義」を求めてデモ行進が行われた。この動きは一気に広がり、既に何度も全国規模で行われている。しかし、「法による民主主義のための欧州委員会」からの勧告も無視され、ねじこみは強行された。現政権は、どの裁判結果が有効か、無効かを国会が決定できるようにしたのだ。

 このような恐怖政治を思わせる法案がどんどん可決されている。最近では「反テロ法案」の名の下、国は個人メールなどの閲覧が可能となった。閲覧の合法性をチェックする機関はない。また、右派の支持者を手中に収めたい現政権は、民族主義色の強い集会や外国人排斥行為に非常に寛容な態度を示している。全欧州で問題となっている中東の難民受け入れ問題からポーランド社会の中でも反多文化共生主義が浸透。それを政治的に利用している状態だ。

 対メディアでは、国営放送のリベラル寄りとされるキャスターを次々に降板、もしくは解雇している。その結果、政権に都合のいい報道ばかりが流れることとなり、国営報道番組の視聴率は急降下した。

 前選挙でPISに投票したことを悔恨する人々は多い。昨年から断続的に続いている反政府デモもその表れだ。しかし国民の中には、現政権を熱狂的に支持する層がある。このような一部の国民だけの支持を受け、現政権は国際社会でどこまで迷走を続けるのだろうか。

  
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