クマムシは、そのへんのコケや海中に生きる、全長0.5ミリほどの虫である。
生物学では、のそのそ歩くクマムシのために作られた分類項目「緩歩動物門(かんぽどうぶつもん)」に分類される。小さな生物だが、その見た目や動きから、 最初にクマムシを見つけたドイツ人研究者が「Water Bear(小さな水熊)」と名づけ、それが日本ではクマムシと訳されている。
しかしこのクマムシ、とくにコケ産のほうは小さいながら驚異的な能力を持っている。それが「乾眠(かんみん)」と呼ばれる生態。乾燥すると代謝を最小限にし、極寒や酷暑等さまざまな極限状況での耐性を発揮するのだ。
実際、欧州宇宙機関が宇宙実験に連れていき、地球に戻ったクマムシがまたのそのそと動き出すことを確認している。そんなエピソードが広まり、「レンジ加熱にも耐える」「宇宙から生還!」など、地球最強伝説が生まれた。
しかし、そんな能力と裏腹に、見目姿はコグマのようでかわいらしい。まるで、眠れる森の美女、クマムシに魅せられて、そのナチュラル・ヒストリー(生活史)を記し続ける鈴木忠・慶應義塾大学准教授に話を伺った。
●最近は海のクマムシに力を入れているんですね?
——はい。先週も行って泥をとってきて。九州の島原湾に、1カ所で十数種類も出てくるすごい場所があるんですよ。ひらひらがついたやつとかぎざぎざがついたやつとか、いろいろ出てくる。そこで出るクマムシの半分は名前がついてない。これまであっちこっち調べていて、島原湾の場所は一昨年見つけたんだけ ど、そのときはすぐにはクマムシを見つけられなかったんだよね。それが去年になって急に見つけられるようになった。つまり、それまでは「クマムシ目〔め〕」 になってなかったんだね。いまはすっかり「クマムシ目」。興味を持ち続けていると、見えるようになってくるんです。
●いまは新種のクマムシを発見して、名づけ、分類する仕事にシフトしているんですね?
——ぼくの現役期間はあと15年しかないんですけど、これから数年は海のクマムシの未記載種をひろって名前をつけて記載することをやっていきたいんです。誰かが記録を残さないと、いるはずのものがいないことになってしまう。