2024年4月26日(金)

科学で斬るスポーツ

2016年8月10日

ボルトのすごさはストライドとピッチの両立

 ボルトの超人ぶりはデータが物語る。

 身長1m96と大きいボルトの最速時のストライド(1ステップの長さ)は2.75mと、身長比の1.40倍。しかもピッチ(1秒あたりのステップ数)は4.48と驚きの数字を示す。「長身選手のピッチは小さい」という常識を打ち破るものだ。世界第2の記録9秒69を持つタイソン・ゲイ(米国)の身長は1m80、ストライドは2.48m、身長比は1.38。このストライドの小ささをピッチ数4.90でカバーしている。

 「身長の高い選手は、通常、ストライドが大きいため、ピッチ数は小さくなる。両者は相反関係にある」と語るのは小田伸午・関西大教授(スポーツ科学)。そのため、ピッチ数を上げることが長身選手の課題だった。逆に身長の低い、桐生祥秀(1m75)らはピッチ数では世界に通用するが、ストライドが不足。ピッチを変えぬまま、いかにストライドを1~2cm程度伸ばすかが、日本人初の9秒に向けた大きな壁となっている。

 その意味で、ストライドとピッチを両立させるボルトの走りは、トップランナーが目指す理想の走りと言える。

 ちなみに1890年代後半~1990年代前半に圧倒的な強さを見せたカール・ルイス(米国)の走りにも似ている。ロサンゼルス、ソウル五輪2連覇のルイス(身長1m88)は、最速時のストライドの身長比は1.44、ピッチも4.36ある。大きな走りで世界を駆け抜けた。

 一方、ガトリンは、ストライドもピッチ数も小さいが、タイムがいいのは、全体的にばらつきがなく、走りに安定感があるからだ。

図3 ボルト、ガトリン、カールルイスのストライド、ピッチの比較
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