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2016年8月10日

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ボルトの走りと脊椎側弯症の克服

 大きなストライドとピッチの多さ。理想の走りをボルトが実現したのは、実は先天的な病気、脊椎側弯症の克服があると言われる。

図6 通常の脊椎と側弯症の脊椎(赤線)

 脊椎は背骨が柱につながったものをいうが、正常な脊椎は図のようにまっすぐ、横から見るとS字状になっていると言われる。しかし、脊椎側弯症は図6の赤線のように曲がっている。そのため歩行や走行中に骨盤がゆがんだり、非対称に揺れたりする。走りづらくスピードがでない。陸上選手には致命的な病気といえる。

 ボルトはこの先天的な病気に向き合ってきた。曲がった背骨はスタート時や走行時に大きな負担を体に強いる。10代のボルトは腰痛に苦しんだ。それでも先天的に走る才があった。

 ボルトは、側弯症を克服するため体幹を鍛えるトレーニングに取り組んだ。骨盤の揺れを最小限にし、それを推進力に変えるためだ。体幹が前後方向だけでなく、左右に揺れながら推進力を得るボルト独特の走りはこのトレーニングから生まれた。特に大腰筋が鍛えられた。大腰筋は大腿骨と背骨を結ぶインナーマッスル。足を上げ下げしたり、前に蹴りだしたりするのにかかわる重要な筋肉だ。高齢者がつまずいて転んだり、歩幅が狭くなったりするのはこの大腰筋が衰えてしまうからだ。

 小田教授は「ボルトのピッチの速さはこの大腰筋の強さにある。地面を離れた脚は素早く膝を折りたたんで、足裏がお尻にくっつくところまでいく。そして前に振り出される。この切り返しをしているのが大腰筋。引き伸ばされたバネがもとに戻るように作用する。脚が接地し、離れる瞬間に最大となり、地面から離れた脚を素早く前に出す。これがピッチの速さにつながっている」と指摘する。

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