2024年4月19日(金)

科学で斬るスポーツ

2016年8月10日

トップスピードは互角

 このほかに二人の走り方を分析する上で重要なデータはトップスピード(最高速度)と、トップスピードに至る「ギアチェンジの速さ」、そして残り10mの追い込み「失速幅」だ。

図4 ボルト、ガトリン、桐生の10mごとの速度、タイムの失速幅
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 ボルトの走りは、スタートはガトリンに遅れるが、50m時点で秒速12m、70m手前でトップスピードの12.35m(時速44.46km)に達し、その後12mを下回ることはない。一方、ガトリンのスタートダッシュは圧巻。60m手前でトップスピードはボルトと同じ秒速12.35mに達する。ローからトップに入るギアチェンジの速さが特徴だ。ちなみに、日本人最高記録の桐生のトップスピードは11.65m。この数字は決して悪いものではなく、過去に9秒台を出した選手よりトップスピードは早い。桐生に日本人初の9秒台の期待が高まるのもこの数字があるからだ。

図5 ボルトとガトリンの100mのスピード曲線
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失速しないボルト、ギアチェンジの速さはガトリン

 図4を改めて見てもらいたい。ボルトの最大の特徴は、後半失速しないことだ。最後の10mのスピードと、トップスピードとの差は、わずか0.3秒しかない。後半、ボルトでさえ失速することがわかるが、他の選手を引き離すように独走しているように見えるのは、この失速幅が小さいからだ。超人的ともいえる数字だ。ガトリンも決して後半が弱いわけではなく、通常の選手の平均値ともいえる。失速幅は0.72秒。この差が最終的なタイム差に表れているといえるだろう。ちなみに、桐生の失速幅は1秒にも達してしまう。後半、動きがとまるように見える桐生の走りを雄弁に語るデータだ。リオ五輪100mには、3人の日本人選手がエントリーする。失速幅が小さく、安定感があるのが山縣亮太、後半、ストライドが大きく失速が少ないケンブリッジ飛鳥。桐生を含めた3人の実力は拮抗しており、「だれが9秒台を出してもおかしくない」(バルセロナ五輪男子400m決勝進出した高野進・東海大監督)と言われるが、まだ世界との差は大きいのが実情だ。しかし、3人が参加する100×4リレーは、バトンのうまさなどチームワークも重要な要素でメダルに届く位置にいることは確かだ。


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