健康問題とテレビ討論会
テレビ討論会を前に、トランプ・クリントン両候補の健康問題が主要な争点に浮上してきました。特に、クリントン候補の健康状態に注目が集まっています。
9月5日の労働者の日にクリントン候補は専用機の中で記者の質問に答えていたのですが、せきが止まらず一時中断する場面がありました。同日、オハイオ州クリーブランドで開催された集会においても、せきが収まらないため水を飲み演説が途絶えてしまったのです。翌日6日、バージニア州フェアファックス市にある支持者の自宅にクリントン陣営の有給のスタッフとボランティアの運動員が集まり、電話による支持要請を行いました。筆者はそこで、クリントン支持者の一人である白人の女性弁護士に次のように問いかけたのです。
「ヒラリーはせきが収まらなくて演説ができなかったけれど、風邪を引いたのかな」
この白人の女性弁護士は、即座にこう答えたのです。
「むせただけ。あなたもむせれば水を飲むでしょ。私も水を飲むわ。共和党は、ヒラリーには健康問題があると主張して陰謀説を広めているの」
過小評価しているのではないかと思いましたが、議論をしませんでした。というのは、クリントン候補の健康問題について語ると有給のスタッフやボランティアの運動員に同候補を非難していると誤って解釈される可能性があるからです。これまで10州のクリントン選対に研究の一環として入り活動を行ってきましたが、同候補の健康不安説が話題に上ったことは一度もありませんでした。選対では共和党の陰謀説という共通認識があったからでしょう。
カネ集めに奔走するクリントン
ただ、現地で調査を行っていた筆者には8月のトランプ・クリントン両候補の行動があまりにも対照的に見えました。トランプ候補は、洪水で被害を受けた南部ルイジアナ州を訪問したのです。メキシコでペニャニエト大統領と共同記者会見を行い、帰国すると西部アリゾナ州フェニックスで集会を開催しました。中西部ミシガン州デトロイトにあるアフリカ系が集う教会にも出向いたのです。その間、同候補は積極的にテレビ出演をして持論を展開していたのです。
一方、クリントン候補は選挙資金集めに走り、トランプ候補ほど表には出てきませんでした。10月に入ると、テレビ広告を大量に打つので当然選挙資金が必要になります。民主党の選挙資金集めにも協力しなければなりません。そのように考えれば、資金集めに時間をかけるクリントン候補の行動は理解できないわけではありませんが、精力的に選挙運動を行っているトランプ候補を見ると筆者には納得がいきませんでした。
集会を開いても負担を減らしていたのか、クリントン候補の演説時間は30分前後でトランプ候補の約半分でした。因みに、2012年米大統領選挙で共和党候補であったミット・ロムニーマサチューセッツ州元知事が体調不良を起こしたとき、同陣営は演説時間を短縮し、アン夫人のそれを長くしたのです。復帰後のクリントン候補の南部ノースカロライナ州での演説時間は23分弱で、さらに短くなりました。同候補は、8月の段階で健康状態がすぐれていなかったのかもしれません。
9月11日の米同時多発テロの追悼式典に参加したクリントン候補は体調を崩して途中退席しました。その際、警備担当者に抱えられ平衡感覚を失いながら車に乗り込む姿の映像が一斉に流れ、その後も繰り返し放映されたことで共和党の陰謀説は消え、同候補の健康問題は現実になったのです。その結果、同候補は健康不安の払拭という課題を抱えました。同候補の健康問題が争点になると、70歳のトランプ候補に対しても、メディア関係者から健康に関する質問が相次いで出たのです。テレビ討論会で司会者ないし会場の有権者から健康について質問が出る可能性が高くなったのです。