鈴木:振り返ればあの9カ月間は医療者と密な関係ができる貴重な経験でしたが、いろいろなことを感じたんです。たとえば、患者さんは自分の気持ちを医療者に言いづらいとか、痛くもないのに、あなたはガンだから治しなさいと言われて、理解できないうちに抗がん剤を打たれて、辛い生活が始まるなんてことも知りました。患者と医療者の間にある上下の関係性みたいなものを体感するという経験をしたのですが、本来こんなに辛いことは患者と医療者の間に信頼関係がなければできないことです。
初瀬:当時はまだ時代的にも医者の言うことは絶対で、患者は何も言えないです。お医者さんによっては乱暴なもの言いをする方もいますし、上から目線の人が多いですからね。
鈴木:再発して入院してから、今こうして生きている自分の価値は何だろうって考えるようになって、会社の仕事にも十分価値はあったけれど、その仕事は僕じゃなくても出来ることに気づいて、自分じゃなきゃできないことを追い求めていこうと思ったんです。それで二分脊椎の患者会の会長をやったり、精巣腫瘍の患者会を立ち上げるという活動をしていったのです。
初瀬:ガンの再発が人生の転機になったわけですね。それ以降はサバイバーとして、生かされた命を社会のために活かしていく道を選んだ。そのひとつがこの『みのりcafe』ですね。
鈴木:13年間務めた会社を辞めるんですが、それはカフェをやりたかったからじゃなくて、人と人が出会う空間を創りたかったからなんです。人は閉じた社会の中にいるのは楽ですが、知らない人に出会ってこそ成長できると思っています。
そんな場を創りたいし、そんなことを仕事にしたいと思ったんです。それで、人と人を繋ぐ空間ってなんだろう? そんな場所ってどこだろう?それも街中にあって……、なんて考えたらカフェという形になった。
初瀬:人と人が出会う空間なんですね、ここは。
鈴木:人と人の交差点になりたいよねとスタッフには伝えています。
あくまでカフェというのは手段であって、今年の5月まで理事長を務めていたNPO法人「患者スピーカーバンク」も患者さん同士が切磋琢磨していく場所ですし、私がやっている患医ねっと㈱はたくさんのイベントや勉強会、研修を通して人と人を繋げています。僕の活動は繋げるといったところに特化しています。
初瀬:人と人の交差点ですか、良いコンセプトですね。確かに出会いは人を成長させますし、人生を変えてくれます。その「場」を作る活動なのですね。
それではNPO法人「患者スピーカーバンク」のことをお聞かせ下さい。
鈴木:ひと言でいうと、患者という立場にある人を、医療機関や医療機器メーカー、製薬会社、大学などで講演できる「患者スピーカー」に養成する活動で、現在の会員数が約80人で、その中にすでに患者スピーカーとして講演活動をしている人が約60人います。それぞれのリストには病名とか症状とか、いくつかある研修のうち、どの研修を終えているのか、どんなテーマで話ができるか、それは研究者向けにもできるか、などが記載されています。
講師を招聘する企業からは、〇〇〇の疾患を持った人とか、あるいはこれくらいの症状の人とか、様々な要望が入ってくるので、それに応じてリストの中から人選をしています。
初瀬:大きな病気や怪我をした方はその経験によって気づいたことを人に伝えたいと思いますし、誰かの力になりたいとか、社会のために役立てたいとか、生かせる場がほしいと思う方たちがいらっしゃいます。そういった思いをかたちにする取り組みなのですね。
*後編に続きます。
1969年生まれ。工学院大学工学部卒。
第一製薬(株)(現第一三共(株))研究所を経て、2014年患医ねっと株式会社を設立。
生まれつき二分脊椎症(脊髄髄膜瘤)による下肢麻痺および膀胱直腸障害による身体障がい者(障がい者認定2級)。
精巣腫瘍(20歳)に罹患、手術、抗がん剤治療をするものの、再発、腹部リンパ節に転移(24歳)。甲状腺がん(46歳)
元日本二分脊椎症協会会長。
北里大学薬学部非常勤講師(2016年~)。日本医科大学倫理委員会委員(2016年~)。
精巣腫瘍患者友の会副代表(2011年~)。ペイシェントサロン協会会長(2015年~)。NPO法人患者スピーカーバンク理事長(2011年~2016年)。みのりCafeオーナー(2008年~)。
日本スペシャルティコーヒー協会認定コーヒーマイスター。
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