2024年4月20日(土)

したたか者の流儀

2016年10月14日

アメリカのウエルス・ファーゴも

 こんな騒ぎは、欧州だけだと思った矢先に、奇妙奇天烈な事件が米国から報道された。西部劇には駅馬車がつきものだ。中でも強盗が狙う現金輸送馬車が時々出てくる。この金融為替馬車屋が現存する。米国西海岸で堅実なビジネスをしていているウエルス・ファーゴがそれだ。盗賊団や何度もおそった金融危機にも打ち勝ち、最もしたたかな銀行という認識がされた矢先にこの騒動が起きた。

 ウエルス・ファーゴは、米国の銀行株の中でも時価総額が最も大きく、堅実さで有名な投資家ウォーレン・バフェットが、大量保有している銘柄でもある。そんな優等生銀行で、スタッフ5000人が一度に首になったというニュースで驚いた。理由を聞くと客に黙って口座やクレジットカードを開いたからだそうだ。CEOは、報酬の大半を返上するとしている。

 世界中の金融機関でいろいろなことが起きている。その昔、80年代、若きCEOジョン・リードは、瀕死のシティー・バンクを危機から救った。しかし、その後退任の手当は300万ドルであったと記憶している。銀行業はユーティリティー(公益)だとすればそんなものであろう。
いつの間にかストックオプションが出回り、トップたちは手っ取り早く株価を上げて、キャッシュを手にすることだけに奔走するようになってしまった。商業銀行では間尺に合わず、切った張ったの投資銀行ビジネスにのめり込み、数十億円相当の年収を得ることが普通となってきた頃に金融危機が起こり、いまだに尾を引きずっている。

 たとえば、50億円の年収を現金でもらえば0.5トンとなる。持って帰ってくれといわれても重すぎてタクシーにも乗らない札束で使うに使えない。米国では100年近く前に同様の経験をしているので、銀行証券分離をしていたが、いつのまにか骨抜きになったのは日本と同じだ。ウエルス・ファーゴはむしろ例外で、口座やカードを作らないと不良社員として首になるのでやむにやまれず不正に手を染めたようだ。ほかのケースは早く億万長者になるために使ったあの手この手がほころびただけだ。

 日本の大手金融機関のトップは50年前、新入社員の年収の20倍程度であったようだ。現在は200倍見当と推定される。そんな金に値する重要な経営判断はしていないし、出来ないと思うが弾みがついてしまった。

 株主の金で、一番リスクが高くて早く儲かることに軸足を移し、成功すれば自分のもの、失敗したら君のせいだが、最悪はタックス・ペーヤー(政府)が払ってくれる。さすがにプロで素晴らしいポジションをつくっていることになる。経営上の不正がなければしょっぴかれることもない。メルケル政府は払わないといっているが。

 人類に役立つ新薬や発明品を作ったのでもなく、人々を分け隔てなく感動させたのでもないのに、なぜ何億円とか何十億円とかの年収があるのか、人類史上の短期的珍事だと願いたい。だから急いでつかみ取りしているのだろう。

  
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