懸念される大量虐殺
モスル奪回作戦が開始された中、幾つかの難題が解決しないまま先送りされている。最も大きな問題はモスルからISを一掃した後、モスルをどういう形で統治するのか、という点だ。対応を誤れば、宗派対立が激化し、過激派が再び誕生しかねない。
モスルとその一帯は元々、スンニ派住民地域。だからこそ同じ宗派のISが容易に占領できたと言われている。しかしイラク軍の主体は多数派のシーア派教徒。ファルージャの解放の際も、ISが駆逐された後にスンニ派住民が大量に虐殺された経緯がある。このためモスルでは、ISよりもイラク軍やシーア派民兵を恐れるスンニ派住民も多く、大量虐殺の再発が心配されている。
アバディ・イラク首相や米国は、解放後はモスルからイラク軍を速やかに撤退させ、地元のスンニ派の警察官に市内の治安を委ねたい意向だ。しかしシーア派の指導者らが反対していることなどからこの問題に決着が付いていない。スンニ派の有力者の1人は「モスル奪還後の計画がないのは非常に危険。もう少し時間を掛けて万全を期すべき」と指摘している。
オバマ政権は11月8日の大統領選挙前に奪回作戦を開始しようとしていると非難されてきた。米紙などによると、オバマ大統領は少なくともイラクだけはIS撃退の道筋を付けて新大統領に引き継ぎたいと考えており、自分の残り少ない任期中にモスルを取り戻したいという思惑があるのは事実だろう。
だが「イラクで学んだことは物事が思った通りにはいかないということだ」(元米当局者)。奪回作戦がイラク軍にとっても修羅場になる危険性は大きく、オバマ大統領の思惑通りに進むかは予断を許さない。
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