2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年11月10日

 イラクでは今年前半内閣改造を巡る政治危機により、一時はアバディ内閣の崩壊も危惧されましたが、夏前に漸く各政党間の妥協が成立し、現下のイラクにとっての最大の課題であるISからのモスル奪還および原油価格低下による財政危機に取り組む態勢が出来上がりました。

スンニ派の将来

 本件論説はモスル奪還後を見据えてのスンニ派の将来を論じたものです。勿論、モスル奪回の軍事作戦自体も極めて困難なものになることが予想され、周到な準備とイラク国内諸派(クルド、シーア派民兵、スンニ派部族)間の協力、米国等有志連合、イランとの連携など複雑な作戦の企画、実施が必要であり、容易なものではありません。

 しかし、イラクの安定とジハーディストの弱体化にとって、軍事的な勝利は第1歩に過ぎず、モスル奪回後のスンニ地域のガバナンス再建こそが最も重要な課題であり、この論説が指摘するようにスンニ派指導層、住民の中に和解への機運が出てきているとすればポジティブな要因として評価されるでしょう。

 ただし、スンニ派住民の帰還、シーア派系民兵組織の動向、クルド系軍事組織ペシュメルガが占拠している係争地域の取扱い等、IS戦後の問題処理は政治的、軍事的に極めて複雑かつ、取り扱いを間違えれば一触即発的な危険を有しており、論説が述べるように米国の仲介者的役割は極めて重要です。米国新政権が対中東政策を立案するに当たり、バランスのとれた賢明な関与政策により、イラクに対する建設的な影響力を行使することを期待します。

  
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