2022年9月26日(月)

AIはシンギュラリティの夢を見るか?

2016年11月17日

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シンギュラリティはいつ起きるのか?

 『人工知能は敵か味方か』(日経BP)という著書の中で、ニューヨークタイムズのジョン・マルコフは、シンギュラリティについての「クリアに見えるからと言って、すぐに起こるわけではない」というサフォーの言葉を紹介している。

1956年にジョン・マッカーシーが提唱したような、汎用的なAIが生まれるまでにはもう少し時間がかかるでしょう。しかし、すぐに起こると思われていることが実は遠いものであったり、逆に誰もそんなことは起きないと信じていることが、突然に起こることがあります。それを「ゆっくりとした変化の早いペース(fast pace of slow change)」のパラドックスといいます。

ボブ・ディランがノーベル賞を受賞しました。彼は無視しているようですが、(大ファンの)私は興奮しています。しかし、AIがノーベル文学賞を受賞する時代が来るかもしれません。物理学や化学といった分野では難しいかもしれませんが。作者が明かされないまま、サリンジャーのように小説を書き続け、その長年の功績によってノーベル賞が授与された後に、それらの作品がAIによるものだったと判明するかもしれません。文学のような古くから人間が行ってきたことを、AIが代って行うようになる可能性が出てきたことは非常に興味深いことです。

もしシンギュラリティが明日起きたら、大混乱になるでしょう。しかし、それが2040年に起きるのであれば、それまでのゆっくりとした変化で人々は順応してしまい、シンギュラリティが起こったことにも気づかないかもしれません。むしろルイC.K.のように、なぜこんなに時間がかかったんだと文句を言うかもしれません。

 著書『ライ麦畑でつかまえて』で有名な作家J.D.サリンジャーは、46歳になってからは執筆をやめて隠遁生活を送ったが、実は多くの作品を書き上げていたという噂があった。

 脚本家でコメディアンのルイC.K.は、早くから自分が演じるトークショーをWebサイトで無償で公開してきた。サフォーは、飛行機が着陸するやいなやポケットからスマートフォンを取り出して電源を入れ、その立ち上がりの遅さに罵声を浴びせる人々を揶揄するルイC.K.のコメディーを引用している。少し前のスーパーコンピュータが数十秒で立ち上がることはすごいことなのに、我々はそれをあたり前どころか不満に感じてしまう。

 新しいアイデアやテクノロジーが生まれた時、メディアの過剰な煽りなどによって市場の期待が急激に高まることがある。それをハイプ(誇張)という。しかし、そのアイデアやテクノロジーの未成熟さから、なかなか実際の製品やサービスとして実現されないと、その期待が一気に幻滅に変わる。そして、そのなかから成熟したものが生き残り、実際の製品やサービスとして市場に提供されていくという流れを、ガートナーはハイプ・サイクルと呼んでいる。

 これまで2度にわたって市場を幻滅させてきたAIは、いま3度目のハイプの頂点にある。しかし、コンピュータ(半導体)技術の指数関数的な進歩によって、人間の脳の構造を模倣したニューラルネットワークやディープラーニングなどの機械学習と呼ばれるAIの技術が、ビッグデータという膨大な情報から「重要な真実」を発見し、囲碁で人間に勝つほどのソフトウェアを生み出すことができるようになった現在でも、マッカーシーが提唱した、人間が知能を使ってすることをコンピュータにさせようという汎用的な(強い)AIへの道筋はまだ見えていない。

 一方で「画像認識」「音声認識」「自然言語処理」などの、分野を限定した(弱い)AIは成熟期にさしかかっており、すでに人々の生活にゆっくりとした変化を起こし始めている。サフォーは「世の中を大きく変えるようなことも、それが臨界点に達するまではゆっくりと変化し、多くの人はその変化に気がつかない」という。その時代を生き抜こうとする企業は、ハイプに踊らされたり幻滅したりすることなく、ゆっくりとした変化の先に必ず起こるであろう未来を見据えてトランスフォーメーションに取り組む必要があるだろう。

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