2024年11月21日(木)

AIはシンギュラリティの夢を見るか?

2016年11月17日

 AIは召使いではない

 前回のコラム『AIがiPhoneのエコシステムを揺るがす』で、アップルのSiriやグーグルのGoogle Assistantなどのソフトウェアエージェントが、次の大きな変化を起こそうとしていると書いた。

ソフトウェアエージェントというコンセプトは新しいものではありません。1987年にジョン・スカリー(アップルの元CEO)が、人と音声で対話するナレッジナビゲータという同様のコンセプトを発表しています。当時はすごいものでしたが、それはずいぶん昔の重要な歴史になりました。イノベーションにはなるでしょうが、それでトランスフォーメーションを起こすことはできません。

ナレッジナビゲータのコンセプトを説明するための動画の制作に関わりましたが、いまそれを見ると非常に恥ずかしくなります。そこで描かれているアシスタントという考え方は封建時代の陳腐なもので、ある意味で女性蔑視で傲慢です。AIは召使いではありません。

アラン・ケイは彼の最初の論文の中で、ダイナブック(Dynabook)というパーソナルコンピューターの元となる構想を発表しました。ダイナブックはアシスタントではなく、ユーザーに寄り添う親しい友人のようなものです。

私のペットの犬は、いつも私と妻の様子を観察しています。AIも常に私たちを観察し、宮崎駿の映画『千と千尋の神隠し』の神々のようにAIどうしが会話をしていて、その会話に私たちが割り込むようになるのかもしれません。

 アラン・ケイのダイナブックの構想は、1977年に『IEEEコンピュータ』誌に掲載された『パーソナル・ダイナミック・メディア』にまとめられている。翌年に書かれた『マイクロエレクトロニクスとパーソナル・コンピュータ』と共に、その翻訳が収められたアスキー出版局の『アラン・ケイ』は、残念ながらすでに絶版になっている。

 『マイクロエレクトロニクスとパーソナル・コンピュータ』で、アラン・ケイは初めて「パーソナル・コンピュータ」という言葉を使い「将来、マイクロエレクトロニクス・デバイスの容量の増大と、価格の低下によって、コンパクトで強力なハードウェアの登場が促されるだけでなく、人間とコンピュータの対話方法も、質的な変化を被ることになるだろう」と予言した。

 その30年後にアップルが発売したiPhoneによって、アラン・ケイの予言は「ほぼ」実現されたといっていいだろう。iPhoneは「可能なかぎり小さく、持ち運び可能で、人間の感覚機能に迫る量の情報を出し入れできる装置」というダイナブックのモックアップよりもさらに小さい。

 「ほぼ」という但し書きをつけたのは、アラン・ケイが、コンピュータがほんとうに「パーソナルなもの」なら、子供といわず大人といわず、あらゆるユーザーが、専門家の力を借りることなく、コンピュータに有益な仕事をさせられなくてはならないとしたからだ。それはユーザーが、なんらかのプログラミングをしなければならないということを意味している。専門家がレディメードの(アプリケーション)プログラムを提供したとしても、建築家や医者や作曲家や家事をする人やビジネスマンや教育者の、それぞれの要求を明確に予測することは難しい。アラン・ケイは、それがパーソナル・コンピュータの最大の障碍(しょうがい)だと認めている。

 ダイナブックの構想に残された「いかにしてパーソナライズするか」という課題を解決するために「あらゆるユーザーが自分のためにプログラミングをする」のではなく「個々のユーザーのためにAIがプログラミングをする」あるいは「AIがプログラムをパーソナライズする」ほうが、より現実的になってきた。


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