2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年11月25日

 いずれも、ドゥテルテの暴走を他山の石としつつ、台湾はこの機会を好機と捉え、米国、日本とより接近した関係を構築すべし、と論じています。

 台湾の地理的位置は東シナ海と南シナ海に跨り、中国の規定する「第一列島線」の中にあります。戦略的に見て、台湾の帰趨は東アジアの安全保障に決定的な重要性を持ちます。フィリピンが米国から離れ、中国に接近しようとするこの機会に、台湾は米、日により接近し、フィリピンに代わって、米国の同盟国の一翼を担うべきだという内容です。

台湾の安全保障上のチャンス

 今日の台湾において、このような議論が直ちに多くの人々の共感を得るかどうかは分かりません。しかし、フィリピンの変化を東アジアにおける親中派の立場の強化とのみ見るべきではなく、台湾の安全保障上のチャンスと捉える発想は興味深いものです。

 ドゥテルテとしては、何よりも中国から240億ドルの経済支援を受けるため、習近平の立場に歩み寄り、中比共同声明の中では、ハーグ常設仲裁裁判所の裁定に一切言及していません。同裁定については、習近平との間では、「今は話すのに適当な時期ではない」と述べただけ、というのが帰国後の説明のようです。いずれにせよ、同氏の持つ不確実性は東アジアにおける大きな不安定要因です。

 米国のアジア回帰策「リバランス」は、オバマ大統領の優柔不断さも手伝い、スローガンとしては使用されてきたものの、実行の伴わないものでした。新大統領の下で、米国の東アジアへの戦略再構成が行われることになるでしょうが、「ドゥテルテの変心」は、フィリピンの抜けた「第一列島線」において、台湾の役割をより大きなものとして扱う可能性はあるでしょう。ヒラリー・クリントンはかつて、台湾の中国への依存度が高まることは、台湾の地位を弱くする旨警鐘を鳴らしたことがあります。

 現在の蔡英文政権は、馬英九政権と異なり、就任演説その他でも明らかなように、米・日・EUやASEAN・インド等との関係を強化し、中国への依存度を減らす方向の基本方針を鮮明にしています。そのような状況下でのフィリピンの変心をいかに台湾の地位向上(経済上、外交上、軍事上)のために活用するか、蔡の腕の見せ所かもしれません。

  
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