2024年12月12日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年11月17日

 フィナンシャル・タイムズ紙の10月14日付け社説が、米国はロシアの最近のサイバー攻撃に措置をとるとしてもサイバー攻撃による反撃はすべきでない、と述べています。要旨は次の通りです。

対抗措置の選択は簡単ではない

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 米国の主張が正しければ、ロシアはハッカーのグループを通じて米大統領選挙に前代未聞の介入をしてきている。国土安全省と国家諜報委員会によれば、全国民主党委員会などから4カ月前に盗まれた情報は、その後タイミングを見計らってウィキリークスに暴露されている。

 米国はこれにどう対応するかという極めて重要な決定に直面している。米国に対する国家支援のサイバー攻撃(イラン革命防衛隊、中国、北朝鮮等)が増加している。西欧諸国は敵のコンピューターネットワークを無能化するようなマルウェアの開発などサイバー能力の強化に努めている。2009年、米国は軍の中にサイバー司令部を設立した。

 しかし、ロシアにサイバー対抗攻撃を仕掛けることは問題を孕んでいる。マルウェアが間違った者の手に入った場合、電力網、航空管制など死活的に重要なインフラの破壊に使用されかねない。

 対抗措置の選択は簡単ではない。クレムリンに対する制裁(ソフトオプション)は、本質的に非対称的な措置であり、サイバー戦争のエスカレーションに繋がる可能性は低い。しかし問題はある。国際的な支持を得るためには米国は主張の裏付けを開示するよう圧力を受けるだろう。
サイバー攻撃による反撃には危険がある。サイバーのやり取りについてのルールは定まっていない。米国にとって有害なエスカレーションが起こらないようにしてロシアに損害を与えることができるとの保証はない。

 今、米国や西欧の国々がすべきことはサイバーに対する強靭性と防衛を強化することである。同時に、米国は、ロシアに対して、このような行動は決して容認しないことを明らかにすべきだ。中国との間には緊密な経済関係があるため、中国にはある程度の梃子があった。ロシアについては、クリミア制裁により経済関係は既に大きく縮小されている。制裁といっても現行の制裁の強化に過ぎず、しかもそれは米国の独自の措置としてやらねばならないことになるかもしれない。

 米ロ中の三国が理解すべきことは、サイバー攻撃は新たな形の戦争でありそれを制御不能にしてはならないということだ。それを制約する国際的約束はいまだ可能となっていない。しかし何とかして新たな努力をする意思を見つけ出さねばならない。

出典:‘America’s dilemma over Russian cyber attacks’(Financial Times, October 14, 2016)
https://www.ft.com/content/8a75f954-9151-11e6-a72e-b428cb934b78


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