2024年4月24日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年11月17日

 FT紙らしい正論です。対ロ制裁に慎重と思われる欧州のムードも反映しています。今回のロシアによるサイバー攻撃は由々しきことです。米国はロシアに対する「均衡的な措置」を検討中といわれますが、上記社説は、対ロ措置の必要性は基本的に認めつつも、サイバーに対する攻撃的な報復措置は制御不能なサイバー戦争への道を開きかねず、行ってはならないと主張します。大事なことは、それぞれの国がサイバー強靭性と防衛力を強化するとともに特に米ロ中が国際的な規制を作るために努力すべきだと主張しています。

 米国で取るべき対ロシア措置については種々の意見が出されています。対抗措置のオプションとしては、経済制裁(しかし欧州に悪影響を与えるので欧州が同調するかどうか)、金融制裁、ロシア関係者の訴追(しかしシリアに関する外交協議は益々できなくなるかもしれない)、米司法省によるハッカー関係者訴追(中国人民軍に対して行ったような)、ロシアの選挙へのサイバー攻撃(しかし有効性は分からない)、サイバー反撃(ロシアのサーバーの無能化)、プーチンの金融コネクションの暴露などが考えられます。10月11日、ホワイトハウス報道官は、大統領は一連の措置を検討中であるが、事前にそれを公表するようなことはないだろう、米はサイバー防衛能力とともに攻撃的能力を持っている、対応措置は当然ながら「均衡的」なものとなる、と発言しています。これらを踏まえた上で、大事なことは次のようなことではないでしょうか。

(1)ロシアに対しては、今回のようなことは容認できないことを強く伝えるとともに、それに信頼性を与えるため何らかの「非対称的な」制裁措置を取る。

(2)措置にはソフトな措置(人的制裁、経済制裁、金融制裁などの非対称的措置)からサイバー分野での対称的な制裁措置(マルウェアで相手のサイバー能力の無能化、破壊)までがあり得るが、後者の措置は、サイバー戦のエスカレーション、サイバー軍拡という未知の段階に公式に足を踏み入れるものであり、望ましくない。FTの言う通り、未知の世界に踏み出すことになる。

(3)措置を取るにあたっては、米の優位とエスカレーション・ドミナンスを損なわないようにすることが重要である。そのためにも「静かに」措置を取るべきである。

  
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