がらりとかわった南米の政治状況
アルゼンチンはそうした苦境を中国やロシアとの関係強化で乗り切ろうとした。一方で、欧米諸国との対話は閉ざし、関係は一気に冷え込んだ。
安倍首相は2013年、2020東京五輪が決まった国際オリンピック委員会(IOC)総会に出席するためブエノスアイレスを訪れている。しかし、その際、クリスティナ大統領とは直接会談を組まなかった。わざわざ地球の裏側にまで出向いたにもかかわらず、面会もしないという振る舞いは欧米諸国と歩調をあわせたのであり、クリスティナ政権への当てつけでもあった。今回の安倍・マクリ会談は実施は、アルゼンチン情勢や、それだけにとどまらず南米の政治状況ががらりと変わったことを示す。
マクリ政権は発足後、矢継ぎ早に市場開放政策を実施した。外貨規制や輸入規制などを次々に緩和、撤廃していき、貿易、投資環境に劇的な変化をもたらした。こうした姿勢に国際金融機関も歓迎し、米州開発銀行(IDB)は今後4年間で50億ドル、世銀も3年間で63億ドルの融資を発表するなど、マクリ政権の改革を後押しした。
欧米諸国との関係も改善した。今年3月にオバマ大統領が米首脳として19年ぶりにブエノスアイレスを訪問。約900人の企業関係者を引き連れ、160億ドル以上の投資拡大を図ることで合意した。オバマ大統領はアルゼンチンを変革のリーダーと持ち上げた。
さらには、フランスのフランソワ・オランド大統領も19年ぶり、イタリアのマッテオ・レンツィ首相も18年ぶりにアルゼンチンへの訪問を果たし、首脳会談を実施。フォークランド紛争で対立してきた英国との関係も改善し、13年ぶりに首脳会談が行われた。
こうした中で、米ゼネラル・エレクトリック(GE)は今後10年間で100億ドル、独シーメンスは今後4年間で50億ドルのアルゼンチンへの投資を行うことを発表した。9月の経済フォーラムにも世界各国から約4000人の大企業幹部らが出席した。
OECDのカントリーリスクの格付けはこれまで、アルゼンチンは北朝鮮やソマリアなどと同じ最低ランクだったが、これが見直された。国債格付けもシングルBとなり、さらなる投資拡大が見込まれている。
一方で、マクリ大統領は就任直後、「中国との関係を見直す」とも表明。その後、トーンダウンしたが中国への依存態勢を薄めようとしている。また、クリスティナ前大統領とプーチン大統領の個人的な友好関係も終焉を迎え、ロシアも自国の経済不況から遠くアルゼンチンまで関与を深めることは不可能な情勢にある。
しかし、依然として物価上昇率は20%前後を推移しているほか、巨額の財政赤字もあり、国民に対して痛みを伴う改革を断行しなければならない。マクリ政権にとっては逆風となるが、IMFだけでなく民間の金融機関も来年の経済成長を3%台に予測。2001年以来の経済悪化に歯止めをうち、「アルゼンチンの伸びしろは非常に大きく、国際経済に良い影響を与える可能性がある」と専門家は語っている。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。