ベストセラーで読むアメリカ

2016年12月2日

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白人労働者たちの日常生活での素顔

 本書では、筆者が幼少期に見聞きしたことを回想しており、こうした貧しい白人労働者階級がどんな人たちなのか、生身の姿を浮かび上がらせる。特に、自身の祖父母に関する記述が興味深い。

 Mamaw told Papaw after a particularly violent night of drinking that if he ever came home drunk again, she'd kill him. A week later, he came home drunk again and fell asleep on the couch. Mamaw, never one to tell a lie, calmly retrieved a gasoline canister from the garage, poured it all over her husband, lit a match, and dropped it on his chest. When Papaw burst into flames, their eleven-year-old daughter jumped into action to put out the fire and save his life.

 「祖父が酔っ払って夜に大荒れしたあと、祖母は祖父に今度酔って家に帰ってきたら殺すと言った。一週間後、祖父はまた酔って家に帰りソファで眠りこけた。有言実行の人である祖母は、そっとガレージからガソリンが入った容器を持ってくると、祖父にガソリンをぶちまけ、マッチをすって火をつけ、祖父の胸の上に落とした。祖父が突然、火だるまになると、11歳の娘が飛んで駆けつけて火を消し命を救った」

 家庭に恵まれなかった筆者は祖父母に育てられたようなもので、祖父母に関するエピソードは豊富だ。筆者がまだ幼いころ、親族の葬儀に参列していて礼拝堂のイスのうえで寝てしまったことが大騒動になった昔話も傑作だ。葬儀が終わって参列者がみな建物の外に出たところで、祖父母は筆者がいないことに気づいた。誘拐されたと勘違いした祖父は自分の車から44口径のマグナムを持ち出し、祖母にも拳銃を渡して、教会の敷地から出る2つの出口を封鎖して、出ていく車を一台ずつ止めて捜索をしたという。実際は、幼い筆者は葬儀場の中で寝ていたのだが。

 高速道路のサービスエリアのトイレに娘が入り、なかなか出てこないので何者かに襲われたとのではと不安に思った祖父が、拳銃を手にして扉を蹴り破って女子トイレに突入した話なども出てくる。あるいは、祖母が歳をとってからケガをして、一時的に介護施設に入ったとき、もし寝たきりになるようなら、祖母の44口径マグナムで頭を打ちぬき殺してくれと頼まれたという思い出も出てくる。筆者も子供のころから祖父に射撃を習ったおかげで、海兵隊の新兵訓練所では、ライフル銃の射撃では最上位の評価を得たという。

 白人労働者たちの日常生活での素顔がわかり、本書はとても興味深い。こうした人々にとって、アメリカ東海岸のエリートたち、あるいはその象徴であるヒラリー・クリントン氏の言葉が胸に響くものであるか疑問だ。まだトランプ氏の不適切な発言の方が共感を呼ぶのではないかと、勝手に納得してしまった。

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