トランプ次期米大統領の外交・安全保障の”指南役”であるマイケル・フリン補佐官(国家安全保障問題担当、将軍)の人物像に対する懸念が強まっている。「陰謀論を好み、部下には異論を許さない」(米紙)性向があり、ホワイトハウスと国務、国防両省などと調整がうまくいくのか、早くも心配されている。
“常軌を逸していた”
フリン氏は2014年まで国防情報局長の要職に就いていたが、「イスラムはガンだ」などの反イスラム的な主張を繰り返し、オバマ大統領から解任された経緯がある。ニューヨーク・タイムズなどがフリン将軍の元同僚や部下などの話として伝えるところによると、特にその「陰謀論好き」が際立っていたという。
その最たる例は2012年9月のリビア・ベンガジの米領事館襲撃事件だった。同事件では、居合わせた米大使ら米国人3人が殺害されたが、フリン将軍は国防情報局の部下やアナリストらに対し、背後にイランによる国家支援テロの疑いがあると主張した。
将軍は数週間、イラン関与説を唱え、アナリストらが思い通りの結果が出せないことに時には怒鳴り散らした。当時のアナリストの1人は「0・0001%の可能性を部下に探させるのは常軌を逸している」と批判している。フリン将軍のこうした陰謀論好きは米政府内では“フリン説”として揶揄されるようになった。
ベンガジ事件では、議会の調査報告書を含め、米政府の調査ではイランの関与の証拠は全く出なかった。しかし将軍の執拗な主張は、ブッシュ政権が米同時多発テロ9・11の報復として、確固たる証拠もなしにイラク侵攻に突き進んでいった姿を彷彿させるものがあった、という。
将軍は国防情報局長に出世する前、イラクやアフガニスタンで主に情報将校として活躍。過激派のネットワークを壊滅する能力を発揮する一方、がむしゃらで歯に衣着せぬ野心家として知られるようになった。国際テロ組織アルカイダを弱体化させたというオバマ政権の見方を拒否し、多くの共和党員から熱狂的な支持を受けた。
フリン将軍は情報局長として独善的な姿勢をあらわにし、ある幹部会議では、ここにいる全員が知らなければならないことは「ボス(将軍)がいつも正しい」ということだ、と絶対的な服従を命じた。この発言に、会合の部屋は沈黙に包まれた、という。
その後将軍は次第に、局の幹部たちを重要な決定から外し、少数の信頼する側近らに大きく依存するようになった。一部は将軍が部下から評価されていないと偏執狂的な思いに捕らわれていた、と指摘している。将軍は同時に、オバマ政権がスンニ派の過激派からイランまでの世界的な脅威に積極的に対処しようとしていないことに怒りっぽくなっていた、という。