そんなことを考えていたらいつの間にか話し声が小さくなっていることに気付いた。空気孔から覗くと二人しか残っていない。二人でひそひそ話をしているとなると当方のテントを襲う相談をしている可能性もある。テントの外から刃物で急襲されると逃げ場を失う。二人のいるベンチとは反対側のテントの出入り口のジッパーを静かに開けた。そして武器代わりのストックを握りしめて空気孔から覗くと二人がぶらぶらと坂道を下りて帰って行くのが見えた。
時刻は午前三時半、“草木も眠る丑三つ時”であった。
高級ワインを買い占める中国商人
10月20日 古代ギリシアの神殿があるセリヌンテの海岸の桟橋でパンにチーズとサラミをはさんでランチをしていた。服装から判断して明らかに中国人らしい40歳前後の男4人女1人のグループが歩いてきた。挨拶すると広州から出張で来たという気さくな連中だ。
イタリアに一か月の予定で高級ワインの買い付けに来たが半分は物見遊山のようだ。私の経験では中国人は基本的に赤ワイン(紅葡萄酒〔ホンプータオジュウ〕)しか飲まないが、やはり買い付けるのは高級赤ワインだけという。
参考までに白ワインはなぜ中国で忌避されるか。理由は三つ:①紅は縁起が良い、逆に白はお葬式の色、②白ワインは冷やして飲むが体を冷やす飲み物は体に良くない、③中国人は総じて歯が悪いので冷やした白ワインは歯に沁みて痛い。
シシリーでは有名なマルサラワインを買い付けたという。習近平指導部は汚職撲滅を旗印にしているので役人の接待や贈答用の高級ワインの需要が落ちているのではないかと聞くと「全く影響はありませんよ」と笑っていた。彼らの販売拠点である広州では富裕層が多いので高級赤ワインの需要は安定しているのだという。