“トランプ・ドクトリン”
内戦の行方に大きな影響力を持つ次期大統領はこのほど、ノースカロライナ州での演説で、“トランプ・ドクトリン”ともいえる持論を展開した。同氏はイラク侵攻のような米国による中東への「介入と混乱の破滅的連鎖」を非難、「われわれが知らない外国の政権を打倒することに血道を上げるのを止めなければならない。そうしたことに関与すべきではない」と強調した。
同氏はさらに「それに代わってわれわれは、テロとの戦い、過激派組織イスラム国(IS)の壊滅に集中する必要がある」と述べた。この発言は、アサド大統領の追放を要求し、反体制派への支援を行ってきたオバマ政権のシリア政策を批判、否定するものであり、トランプ政権が「シリア内戦には干渉しない」と宣言したのに等しい。
その意味するところは「アサド政権の容認、反体制派への支援打ち切り」であり、アサド大統領を支えるロシアのシリア介入を認めるということだろう。トランプ氏の掲げる「米国第1主義」に基づいた政策で、反体制派にとっては、武器供給の後ろ盾を失い、相当ショックな発言だ。
しかしテロとの戦いに特化する“トランプ・ドクトリン”では、紛争の解決をもたらすことにはならない。宗教や民族、複雑に絡み合った地域の特性、そして中東に共通する若者の高い失業率や、社会への幻滅など諸問題に並行して対応しなければ根本解決にはつながらないからだ。
世界の注目がアレッポの激戦に集まっているスキに、シリア中部の世界遺産都市パルミラが11日、「イスラム国」(IS)によって再び占領された。ISは昨年5月にパルミラを占領したが、ことし3月にロシア軍の空爆と政府軍勢力の猛攻を受けて撤退していた。
ISはイラクではモスルの奪還作戦、シリアでは首都のラッカに対する制圧作戦が開始されるなど追い詰められ、組織存亡の窮地に立たされているが、パルミラの再占領で、そのしぶとさを誇示する形になった。トランプ新政権を待ち構える中東の混迷は底が見えない。
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