前向きに読み解く経済の裏側

2016年12月26日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

経済評論家

1981年 東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の業務に従事。2005年 銀行を退職して久留米大学へ。現職は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は一個人として行うものであるため、肩書きは「経済評論家」とする。

本当に怖いのは、危ない借り手しか借りに来ないこと

 仮に、「担保や保証は不要で、借り手の事業の将来性を見て融資します」という銀行が設立されたとします。しかし実際には行員の目利き能力は低いため、事業性の判断はできないとしましょう。仕方がないので新銀行は、「すべての借り手に融資すれば、借り手の倒産確率は5%程度だろう」と考えて金利を5%に設定するとします。

 世の中には、「確実に7%儲かる堅実な会社で、しかも担保がある会社」が多数ありますが、そうした会社は旧来型の銀行に担保を提供して5%より安い金利で借りてしまいますから、新銀行には見向きもしません。そこで、そうした会社の話は忘れることにしましょう。本当は、一番借りて欲しい会社なのですが……。

 世の中には、「確実に7%儲かる堅実な会社、ただし担保なし」と、「100借りれば、確率5割で150か80になる」ようなハイリスク・ハイリターンな会社が同じ数だけ存在しているとしましょう。しかし、そのことは銀行は知りません。

 金利が5%ですから、両方のタイプの会社が銀行から融資を受けます。堅実な会社は、金利を支払います。ハイリスク・ハイリターンの会社も、半分は金利を支払います。つまり、全体の4分の3の会社は、銀行に5%の金利を支払うわけです。しかし、残りの半分(つまり全体の4分の1)の会社は、金利も払わず、80しか返済しませんから、銀行に20の損失を与えます。結局、銀行は赤字になってしまいます。

 そこで銀行は、金利を10%に引き上げます。すると、堅実な会社は借りに来なくなり、ハイリスク・ハイリターンの会社だけが借りに来ます。借り手の半分は10%の金利を払いますが、残りの半分は銀行に20の損失を与えますから、銀行の赤字はむしろ膨らんでしまいます。

 もしかすると、最悪の場合には、銀行が事業の将来性を評価できないことを知った詐欺集団が、事業性のありそうなプレゼンテーション資料を用いて銀行から融資を引き出し、計画倒産する可能性さえも否定出来ないことになります。

 何が問題かと言えば、最も借りて欲しい会社(堅実で担保もある借り手)は最初から借りに来ず、次に借りてほしい会社(堅実だが担保のない借り手)も途中から借りに来なくなり、ハイリスク・ハイリターンな借り手(及び詐欺師)だけが最後まで借りに来る、という「逆選択」が起きることです。来て欲しい客は来ず、来てほしくない客だけ来る、というわけですね。

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