権力を手中に収めた者が次に望むのは不老不死、というのは歴史の中で繰り返されてきた事実だ。米国次期大統領、ドナルド・トランプ氏も、もしかしたら不老不死の神話に取り憑かれているのかもしれない。それを示すのが、次期FDA(米食品医薬品局)長官の候補に挙げられているジム・オニール氏の存在だ。
オニール氏はシリコンバレーの投資会社、「ミスリル・キャピタル・マネジメント」のマネジング・ディレクターだ。これはシリコンバレーの億万長者、ピーター・シール氏が持つ投資会社の1つである。シール氏と言えば大統領選挙でトランプ氏に多額の寄付を行い、批判に晒された人物でもある。今回の人事はシール氏への褒賞人事という見方もある反面、FDA改革への足がかりとなる、との期待もある。
オニール氏は、かねてからFDAの特に医薬品への承認プロセスに疑問を投げかけてきた人物だ。2014年の時点で「薬品会社が薬の安全性を示すデータを提示した以上、FDAは速やかに承認を行うべきだ。そして難病の治癒の可能性がある薬を、利用者が一定のリスクを背負って使用する機会を与えるべきだ」と主張してきた。
そしてオニール氏が長年投資を行ってきた分野が「アンチ・エイジング」なのである。米国では一部の医学者らが「加齢は病である」という姿勢をとりつつある。病である以上、加齢を防ぐ医療が行われるべき、という動きだ。
米国ではすでに「若返りバイオテクノロジー」と呼ばれる研究分野が存在する。「RNAスプライシング(組み換え、継ぎ接ぎ)」により寿命を延ばす研究、血液のタンパク質バランスをあえて崩すことにより加齢を減速させる研究、あるいは加齢をコントロールするタンパク質を特定する、加齢を逆行させるホルモンの特定など、様々なアプローチが進んでいる。
シール氏傘下の投資会社は元々こうしたアンチ・エイジング技術への投資を広く行ってきたが、特にオニール氏はこの分野に積極的な姿勢を見せていた。加齢のストップだけではない。加齢と共に増加する疾病、アルツハイマーやガンに対する研究にも投資が行われている。
もしオニール氏がFDA長官に指名されればこうした分野の研究への助成金制度などが充実し、医薬品認可のプロセスも短縮されてアンチ・エイジング系統の医薬品が一般に利用できる日が訪れるかもしれない、という期待がある。