大企業の社長選定のキーファクターは、花形と呼ばれる部門での経歴が長いかどうか、社内ポリティクスを無難にこなすバランス感覚があるかどうか、人柄が良いか、などと言われる。しかし事業環境の変化が劇的に早くなり、かつての花形部門が一瞬でコストセンターになる時代である。そして超大国に出現した「彼」によって、まさかのことが実現していく世の中でもある。このような環境下、従来の方式で選ばれた日系大企業のトップは、すべてのステークホルダーの利益を最大化できる能力を持ちうると言えるのであろうか?
米国のスピンオフ
私は前回のコラムで米国のスピンオフについて述べた。一種の会社分割である。例えば、石油資源探索会社のMarathon Corporationは、上流事業である石油・天然ガスの探査、開発、生産という上流事業と、ガソリンの精製・販売という下流事業を有していたが、Marathon Petroleumという会社を設立して、下流部門をそこに移管した。また、医薬品および医療器具の製造販売を手がけるAbbottは、Abbvieという会社を新設し、新薬の開発を行う部門を移管した。資源の探査・開発と新薬の開発、どちらも当たれば非常に大きいが、非常にリスクの高い事業である。
それぞれ、ガソリンの精製、既存薬や医療品の製造販売と比べて求められる経営のExpertizeは全く異なるのである。元々同根だった複数の事業。それが時代や環境によってその特性が劇的に変わってしまう場合、米国ではスピンオフによってそれぞれに対する適正なガバナンスを提供しようとする。双方の企業価値増大を企図してのことであるし、株主に対して正しいリスクリターンの有り様を示すためでもある。
翻って、テレビ・パソコンの製造会社としての東芝に投資した株主は、エネルギー事業のリスクをどう見ていたのであろうか? 我国では、スピンオフに関する特別な税制が整備されておらず、日系企業がそのようなスキームで再編をする手立てがない。経産省は財務省に対してスピンオフ税制を盛り込んだ税制改正要望を出しているが、その法改正は待ったなしと言って良いだろう。東芝がエネルギー事業の転換を決めた際に、スピンオフ税制が整備されていタラ、そして実査にエネルギー事業構造を切り出して十分なExpertizeを持った経営者がこれを指揮していレバ。流行りの「東京タラレバ娘」ではないが、何ともせんないものである。