日本の惑星探査プロジェクトの多くを支える惑星科学者・佐々木晶氏。
その研究は、火星周回のダスト計測や、月の地形や重力分布観測、
小惑星イトカワの観測など、惑星探査の将来に貢献している。
宇宙空間の環境を探る研究にも力を入れ、宇宙進化の謎を追いかける。
高井ジロル(以下、●印) 先生の大目標は、太陽系の起源を知ることですか?
佐々木晶(以下、「――」) どちらかというと、どうして太陽系がこんなにバラエティが豊かになったのかという、進化のほうに興味があります。どうしてこれだけいろんな天体ができたのか。一つの天体でも地域によっていろいろなバラエティがあるのか。たとえば月でいえば、表と裏が違います。火星でも、北半球と南半球では全然違うんです。そういう変化がどういうふうに生まれたのかを解き明かしたいと思っています。
いま、太陽系の外にいろいろな惑星が見つかってきています。なかなかそこまでは行けないけど、探査を重ねて惑星の知識が広がっていった先には、ほんとに我々の想像をこえたバラエティがある。そのあたりを意識して、探査をしていきたい。太陽系外惑星の表面に我々が直接行って見ることはできないけど、太陽系の中だったらそばに行って探査することはできる。得られる知識を重ねることが、未知の天体を知ることにだってつながると思います。
●先生がやっている惑星科学というのは天文学とはどう違うんでしょうか。
―― もともとは惑星も天文学の対象でした。ですが、惑星探査が可能になり、遠くから眺めていただけのときよりも、惑星の情報をたくさん得られるようになった。そこで、それまで地球科学で行われてきた研究手法、地形、材料、大気といったものが、地球以外の惑星にも応用できるようになってきたんです。そうして、天文学から地球科学、地球惑星科学と発展したんです。英語でいうとEarth and Planetary Scienceですね。アポロ計画が始まって早い段階からアメリカでは惑星科学が発達しました。その後、火星、木星、土星といった惑星の探査がスタートして、太陽系のさまざまな情報が増え、それを扱う惑星科学も発達したわけです。日本でその流れが出てきたのは90年代に入ってから。アメリカとは開きがありましたが、惑星科学が地球科学の発展に大きな手がかりになると考える人が多くなったんですね。
●先生が地球物理学から惑星科学に進んだのも時代の自然な流れなのでしょうか。
―― 私は、もともとは気象に興味があって、天気予報みたいなことをやってみたかったんです。高校の頃に山岳部に入って、山に登るために、ラジオを聴いて自分で天気図を書いていたから、気象に自然と興味を持つようになった。ただ、当時、気象の分野にもスーパーコンピュータが導入され始めまして。たとえば雨の確率は何パーセント、などと気象現象を数値化するようになっていました。それがなんとなくいやだったのか、まあ、その頃は考えが浅かったんでしょうけども、この分野にいって何ができるか、という展望が自分には描けなかったんですね。そのときに、一度大学院で好きなものをやってみようかと思い直した。