●ダスト計測に続いて、再び専門外のチャレンジだったわけですね。
−−やってみたところ、実際の小惑星の色の変化を再現することができたんです。その頃の有力説は、宇宙風化作用がおこる原因は鉱物の中にナノメータースケールの鉄の微粒子ができるから、というもの。実際に、月の砂では鉄の微粒子が見つかっていましたが、それが反射スペクトルの変化の原因だと確かめた人はいなかった。それで、電子顕微鏡で確認したら、我々がシミュレーションでつくったものの中に、微小鉄がたくさん見つかって、これは大きな発見だとわかりました。論文は2001年に「ネイチャー」誌に載りました。
●鉄は酸化すると赤くなりますけど、宇宙空間で酸化はしないですよね?
−−この場合は酸化ではなく還元されて赤くなる。非常に細かい微粒子になって、それが光を散乱して短い波長の光を散乱させて赤く見えるんです。英語でspace weathering といいます。
この宇宙風化の研究をしたことが、小惑星探査機「はやぶさ」のミッションにつながります。「はやぶさ」が行ったのは小惑星イトカワですが、イトカワはS型といって普通の岩石質の小惑星です。そして、S型の小惑星にとって一番大きな問題が宇宙風化作用なんです。
(写真:JAXA/ISAS)
当時、小さい天体には宇宙風化作用は少ないと考えられていました。イトカワも、地上からの観測では、弱い宇宙風化作用しか受けてないと思われていました。私も、風化するのは月の砂みたいなもので、岩は風化しないと思っていましたね。色は黒っぽくならないだろうと。ですが、「はやぶさ」がイトカワに近づいてみると、細かい砂はほとんどなくて岩ばかりなのに、岩の表面が黒っぽくなっていました。これは新しい事実でした。
(写真:JAXA)
●宇宙風化があると、どういうことがわかるんでしょうか?
−−宇宙空間にさらされればさらされるほど岩の風化が進むとすると、風化による色の変化を調べれば年代の変化がわかることになります。サンプルが集まれば、これくらい色が変わったということは、この天体はどれくらい前にできたものである、ということができるようになる。小惑星は衝突でできた破片からなる天体。その小惑星を作った衝突がいつあったものなのか。イトカワは岩の積み重なりでできていて、1回集まったあとまた変形した可能性もありますが、ではその表面はいつ頃宇宙空間にさらされ始めたのか。こうした興味がわいてきます。
年代を調べる方法としてもう一つ、小惑星の軌道が変わるということがある。ある小惑星の集団が、長い時間をかけて、重力の影響などで軌道がずれていく。そのずれが大きければ大きいほど古いことになります。そういう目で見ると、軌道のずれが大きい集団ほど、色が黒く変わっているんですよ。軌道のずれがあまりない集団では、色はあまり変わっていない。やっぱり、年代と色の変化は対応していると言えます。