オバマ前大統領のリーダーシップスタイルは、上で説明しました同陣営の説得の仕方に現れていました。一言で言ってしまえば、傾聴・敬意型リーダーシップスタイルです。その背景には積極的傾聴と敬意を通じて、「まず相手を理解してから、次に理解される」という原則が存在しています。世界的なベストセラーとなったスティーブン・コーヴィー氏の「7つの習慣」に登場する第5の習慣「まず理解に徹し、そして理解される」と類似点があります。
オバマ前大統領はホワイトハウスにおける会議で、特にスタッフの異なった考え方やものの見方に対して関心を示し積極的に傾聴したと言われています。傾聴・敬意型リーダーは、「答えは自分が持っている」のではなく「答えは相手の中にある」というアプローチをとります。このアプローチは、極めて重要です。同大統領の傾聴・敬意を示すリーダーシップスタイルが、キューバ及びイランとの関係改善につながったと言えるかもしれません。
余談ですが、筆者が教鞭をとっている私立大学の学生がある企業の就職試験におけるグループディスカッションのテーマが「望まれるリーダーは強いリーダーか、柔らかいリーダーか」であったと語っていました。強いリーダーが率先垂範型で、弱いリーダーが傾聴・敬意型であるとは決して言えません。リーダーシップは効果性の問題です。リーダーは1つのリーダーシップスタイルに固執する傾向がありますが、率先垂範及び傾聴・敬意型の双方のスタイルを取得することが肝要なのです。
信頼・尊敬・愛情
「ベールをつけていないという理由から女性を殴る男たちを打ち殺すのは実に愉快だ」と物議を醸す発言をしたジェームズ・マティス国防長官は、「狂犬」と呼ばれています。ところが、マティス国防長官が海兵隊を対象に実施したリーダーシップ研修のビデオを観ますと、狂犬のイメージとかけ離れた同長官の姿が見えてきます。
例えば、マティス長官はリーダーの特性に信頼と尊敬を挙げています。リーダーは、部下から信頼と尊敬を得ることが必要であると主張しているのです。それに加えて、マティス長官はリーダーの特性として愛情が不可欠であると強調しています。同長官によれば、部隊及び組織が1つになるためには、部下に対する愛情が欠かせないと指摘するのです。この言葉は、「お前はクビだ」のトランプ大統領の口から決して聞けない言葉です。
変革型と取引型リーダーシップスタイル
ではトランプ大統領はどのようなリーダーシップスタイルをとっているのでしょうか。リーダーシップ論で有名なバーナード・バスとロナルド・リギオの変革型と取引型リーダーシップスタイルを用いて分析してみます。
バスとリギオによれば、変革型リーダーシップの構成要素には、カリスマ性、モチベーションの鼓舞、個人への配慮及び知的刺激があります。まず、カリスマ性です。フォロアーは、自分とカリスマ的リーダーを同一視する特徴があります。
トランプ大統領は、特定の熱狂的な支持者に対して同一化を促進することに成功しました。このトランプ信者は、「トランプ=真実」と信じており、同大統領と一体化していました。2017年1月筆者がニューヨークにあるトランプタワーでインタビューをした白人男性は、「トランプは決して嘘をつかない」と主張していました。このトランプ信者の男性には「トランプ=真実」という公式が成立しており、彼は同大統領と一体化していました。
次に、モチベーションの鼓舞です。トランプ大統領は、ワシントンの職業政治家ないしエスタブリッシュメント(既存の支配層)から無視された白人労働者及び退役軍人といった「忘れられた人々」の見方になりました。さらに、ヒスパニック系、イスラム教徒、司法並びに主要メディアを敵にして、対立構図を作り白人労働者や退役軍人を鼓舞したのです。メキシコとの国境における壁建設、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉及び環太平洋経済連携協定(TPP)離脱宣言により、労働者階級を気づかい彼らの気持ちを配慮したのです。