もう突っ張って自分を守る必要がなくなったのだろう。そして「印象派NÉO」では、「私の赤ずきんちゃん」「灰かぶりのシンデレラ」とすでに2作品を発表し、今春からは3作目の「不思議の国の白雪姫」を携えて東京、京都、パリでの公演が決まっている。
「『印象派』の8回は、自分の思いだけで続けてきたけれど、演劇というカテゴリーで世に問うと、どうしてもストーリーが求められる。私だけの戦いの舞台です、なんて言っても通じない。作品としてはコンテンポラリーダンスの範疇に入れればすっきりするんだけど、私はダンサーではない。演劇と舞踏と音楽の融合ですから演劇の要素は必要。それなら世界中の人が知っている物語をテーマにしようと、童話をベースにしています」
今回は「不思議の国のアリス」と「白雪姫」の合体である。永遠に続く時間と突然止まる時間というように、対照的なものを表現する舞台にしていきたいと言う。
ライフワークとも言える舞台を創り上げながら、俳優として映画やテレビドラマに出演し、歌も50代から、「ジビエ・ドゥ・マリー」というブルースロックバンドで、本当に自分の歌いたかった世界を実現させている。2年前からは、バンドとは別に夏木マリとしてライブハウスの全国ツアーも展開している。
無意識で出会ってきたことを、意識的に出会い直してみせるという勢いが感じられ、活動の場はますます広がっているようである。ただひとつ、蜷川幸雄演出の音楽劇「ガラスの仮面」以来、遠ざかったままの舞台俳優としての夏木マリが気にかかる。
「この頃、人の舞台を観に行くと、やりたいなと思うようになってきているんです」
おそらく、これも実現するのではないだろうか。
ところで、今の夏木マリは果たして何者? という謎が甦ってくる。
「プレイヤーと言われるのが一番うれしいかな。子供が遊ぶように、本気で仕事をしたいんです」
自在に自由に自分を発揮できる境地にたどり着いたということかと尋ねたら、「まだまだ全然たどり着いていないけど、1ミリずつでも向かっていきたい」と答えが返ってきた。
◎「不思議の国の白雪姫」公演日程 4/2日:ロームシアター京都サウスホール
4/25日:ルーヴル美術館オーディトリアム
HIRO KIMURA(W)=写真
亘つぐみ=衣装
TAKU(CUTTERS)=ヘアスタイリング
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