2024年11月22日(金)

百年レストラン 「ひととき」より

2017年5月23日

 ヒサ子女史の息子の卓也さんは、東坡煮を用いたご飯ものの開発に力を注いだ。もともと賄い飯として、その煮汁をご飯にかけたり、煮汁でご飯を炊いたりして食べていた。それを応用し、平成9年(1997)に煮汁で米、もち米、人参、牛蒡、椎茸を竹皮に包んで炊きあげ東坡煮を添えた「角煮めし」を発売。また、「長崎らしい駅弁がない」という声を受けて、平成17年には駅弁を開発。翌年には空弁(そらべん)として長崎空港でも売り始めた。加えて通販にも力を注いでいる。そういった商品で「坂本屋」の味を知った全国の人が、長崎観光の折に食べに来る。

東坡煮。脂は落ちているが、ぱさつかずジューシー。見た目ほど味は濃くなくいくつでも食べられる(左)。左は、海老のすり身をパンで挟んで揚げた「ハトシ」。右は、砂糖と共に炊いた黒豆(右)
食前には自家製梅酒を出す。1.8リットルの瓶100~150本に毎年漬けている

跡継ぎ問題が吉と出ている

 時代の風を読む経営感覚は、同店に綿々と続く遺伝子なのだろう。が、実は後継者問題に悩まされてきたという歴史もあるとか。

 「昔からこの家には、『跡を継げ』という感覚は全然ないようです。2代目・サダの息子は継ぐ気がなく、造船所に就職しました。先代のヒサ子はもともと造船マンの妻になるつもりで嫁いだんですが、いつのまにか宿の手伝いを始め、サダにみっちりと仕込まれました。先代は8人の子供に恵まれましたが、3人が早くに亡くなりました。5人の子供のうち3人の娘は嫁に行き、長男も商社マンに。末っ子の主人(4代目)も東京の大学に入り、就職先も決まっていました。でも卒業式を前に帰省した時に、先代が1人厨房で働いている姿を見て急に思い立って、内定した会社に断りを入れて家に戻ったんです。私たちの息子は今、東京で銀行員をやっています。今後どうするかは、本人の考え次第です」

 自らの意思で跡を継いだからこそ強い思い入れを抱くし、離れた場所から冷静に見た経験が積極的に「いろんなこと」を手掛けさせるのだろう。4代目の卓也さんは、「伝統は革新の積み重ね」を座右の銘としている。

●坂本屋
<所在地>長崎県長崎市金屋町2−13
(長崎駅から徒歩約8分、または長崎市電五島町電停から徒歩約2分)
<営業時間>11時30分~14時30分 ラストオーダー:13時30分、17時30分~21時30分(19時30分最終入店)
<定休日>なし
<問い合わせ先>☎095(826)8211


写真・伊藤千晴

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

◆「ひととき」2017年1月号より

 

 

 

 


新着記事

»もっと見る