2024年11月23日(土)

サイバー空間の権力論

2017年4月27日

医療、ドローン……
すでに多くの研究蓄積も

 Facebookの発表は、実はこれまでも研究されてきた蓄積のある技術である。例えば「ブレイン・マシーン・インターフェイス(Brain-Machine Interface:以下BMI)」と呼ばれる、機械と人間の脳を接続する研究は以前から進められている。BMIは患者の脳に電極を埋め込み、そこから脳波やニューロンと身体運動に関するデータを取得し、患者が思考するだけで実際に義手などを自分の身体のように動かす、といったものがある。電気信号を送ることで症状を緩和させることができるため、てんかんやパーキンソン病といった主に医療介護福祉分野では、BMIの開発が進められている。

 またFacebookの発表から数週間前、「ニューラリンク」という会社が設立されていたことが報道された。この会社の設立者は、電気自動車「テスラモーターズ」のCEOで有名なイーロン・マスク。ニューラリンクは神経科学技術を開発し、脳に電極を埋めるBMI型の研究を進めているという。実際、最近の報道では脳卒中などの重大な脳障害に役立つものを、4年以内に(それ以外の分野も10年以内に)市場に投入することをニューラリンクは目指しているという

 しかし、BMIは脳に電極を埋めるといった身体的リスクを伴うことから、非侵襲型(生体を傷つけることのないという意味)の技術開発も進められている。それが今回のFacebookの非侵襲型の技術であり、これは「ブレイン・コンピュータ・インターフェイス(Brain-Computer Interface:以下BCI)」と呼ばれる。

 BCIの場合、電極を埋め込むことなく脳波を測定する簡単な装置を装着することで、コンピュータと脳をリンクさせる。中にはイメージするだけでドローン操縦が可能という驚くべきものもある

 また全身麻痺状態で、意識はあるものの会話が困難な患者の思考を読み取り、会話などを可能にする技術も開発されている(現状では簡単な二択に答えるようなものでも、いずれは念じるだけで会話ができるかもしれない)。

 一部の専門家にとって知られていたことではあるが、今回の発表はFacebookがこの技術開発競争に本格的に参戦したということを宣言したことになる。この驚くべき技術には、すでに多くの研究蓄積があることを読者にご理解いただけたであろうか。医療分野ではますますBMI/BCI研究が求められるだろう。

考えられる問題とは何か

 素晴らしい技術とはいえ、やはり懸念はある。まずFacebookの発表には、自分の想像がすべて言語化されて、自分の秘密がなくなってしまうのではないか、という意見があった(重要な会議中に週末の旅行計画を立てているのばバレてしまうなど)。デュガン氏によれば、意識的に言語中枢に送った言葉のみを取得するとして内心の自由を保証するという。だがそのような技術は可能なのか、あるいは本当は深層心理の情報を盗まれるのではないか、という懸念は拭えない。

 次に、何と言っても軍事目的である。デュガン氏がもともと所属していたDARPAは、軍や議会から独立とされ批判を受けず予算も独自の特殊な組織であるが、あくまで国防総省の内部組織と位置づけられており、軍事技術の開発に貢献する研究も行われる。

 実際DARPAはBMIの研究プロジェクトを発表しており、4年間で最大6000万ドルの研究資金の投入が計画されている。そこでは機械を通して、医療目的の視覚や聴覚能力の向上が検討されているが、当然のことながら軍事転用も考えられる。他にも、技術が進めば自分の深層心理にいたるものまで言語化が可能になるかもしれない。みたくないものまで見えてしまい、そしてそれが他者と共有される恐れもある。もちろん適切に扱えばメンタルヘルスなどの分野で貢献するが、技術の使用方法に関しては慎重な議論が求められる。

 やや議論を拡張させるならば、データの伝達を悪用することで、他人の記憶を書き換える、といったことが可能になるかもしれない。人の思考を読み取れるのであれば、思考を植え付けることも可能だ。実際、上述の『攻殻機動隊』では、脳へのハッキングによって偽の記憶を植え付けられた人物が描かれている。そう、我々の「現実」はさらに複雑なものになるのだ。


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