市場メカニズムが働く条件は、人々が賢いこと
自動車販売会社が利益率を公表しなくても、消費者の大半は賢いので、良い車を安く買うための情報収集を怠らない、としましょう。消費者は、価格に見合った性能を有する自動車を間違えなく買うので、公表しなくても消費者の利益は害されないのです。
そうであれば、企業は「消費者の利益を考えて、利幅を下げる」のではなく、「自社の利益を考えて、あまりガメツイ価格設定をすると客が来なくなってしまうから、顧客に優しい価格設定をする」のです。
中には賢くない消費者もいるでしょうが、心配要りません。消費者の大半が賢ければ、売り手は暴利を貪るような価格設定をしなくなるので、賢くない消費者も適正な価格で購入することができるのです。
しかし今度は、大半の客が賢くないとしましょう。売り手は法外な値段を付け、「お勧めは?」と聞いてくるカモに、最も利益率の高い商品を勧めることになるでしょう。時々賢い客も来店し、あまりの高さに唖然として立ち去っていくでしょうが、気にすることはありません。そうした客は、価格の安い(利幅の小さい)店に行けば良いのです。そんな客を逃しても、惜しくありません。だから売り手としては、「ガメツイ価格設定をしても客が逃げないから、顧客に優しくない価格設定をする」のです。
もしかすると、自動車を買う客は賢いから、所管官庁が「顧客の利益を優先しろ」と言わなくても、顧客の利益が守られるので、所轄官庁は何も言わないのかもしれません。一方で、金融商品を買う客は賢くないから、所管官庁が「顧客の利益を優先しろ」と言わないと、顧客の利益が守られないため、その旨の指示を出しているのかもしれません。
たしかに、後述のように、日本の金融教育は不十分ですから、そうしたことはあり得ますが、消費者が自動車等々について充分な知識を持っているのか否かは、はなはだ疑問です。
日本の金融教育は、不足している
もしかすると、日本人は金融教育をほとんど受けていないので、金融商品や運用については無知で、「金融機関のお勧めに従うのが一番良い」と思っている人が多いのかもしれません。実際、金融広報中央委員会の金融リテラシー調査(2016年)によると 、たとえばクレジットカードで分割払いを選択すると、手数料(金利)負担が生じることについて理解している人は半分弱にとどまっています。また、住宅ローンの利用者でも、金利変動時の固定・変動金利の適切な選択について理解している人は半分弱です。国際比較をしても、正誤問題に関する正解率は米国よりも10%下回っています。
また、visaが 2012年3月に日米の大学生に対し実施した調査によると、小・中・高等学校のいずれかで金融教育を受けた経験があると回答した大学生は、日本の大学生が39.7%(124名)に対し、米国の大学生は72.2%(249名)であり、約2倍の差がありました。日本の金融教育が如何に不足しているか、推察される所です。