株主利益を追求するのは悪いことか?
「金融教育が足りないから消費者が適切でない商品を買ってしまうのだ。だから金融教育を充実させなければならない」というのであれば、理解できますが、それならば文部科学省に申し入れる話でしょう。「銀行協会等々に圧力をかけて、金融教育の寄付講座を作らせる」といった程度であれば、まだ理解できます。しかし、株式会社に対して「自社の利益より客の利益を考えろ」というのは、越権行為ではないでしょうか?
そもそも、日本人の金融教育が足りないと言っても、「金融商品について、よく知らない」ということであって、手数料率を知らない、ということではありません。たとえば投資信託について言えば、「投資信託についてよく知らないから、自分の生涯設計に相応しくない投資信託を買わされてしまった」ということならば同情の余地はありますが、「投資信託の販売手数料が◯%である」ということは理解した上で買っているので、「手数料の高い投資信託を売りつけられた」という客に対しては同情の余地はありません。
金融機関は多数の投資信託を売っていて、手数料も開示していますから、客としては手数料を比較すれば良いのです。ネット証券であれば、手数料は安いのですから、ネット証券で購入すれば良いのです。「インターネットが使えないから、手数料が高いと知っていますが、御社で購入します」という客に対して、高い手数料を請求したからと言って、監督官庁に怒られる理由はないでしょう。
金融庁の特殊性に起因している面も
ちなみに、各省庁はそれぞれに所掌の業界を割り当てられていて、業界の健全な発展のために保護育成する行政を心がけるのが普通です。たとえば経済産業省設置法には「経済産業省は、民間の経済活力の向上及び対外経済関係の円滑な発展を中心とする経済及び産業の発展並びに鉱物資源及びエネルギーの安定的かつ効率的な供給の確保を図ることを任務とする」と定めています。産業の発展を図ることが任務なのです。
しかし金融庁は、前身が「金融監督庁」であったことからも推測できるように、金融産業の保護育成を目指したものではなさそうです。金融庁設置法にも「金融庁は、我が国の金融の機能の安定を確保し、預金者、保険契約者、有価証券の投資者その他これらに準ずる者の保護を図るとともに、金融の円滑を図ることを任務とする」とあります。金融産業の発展を図ることは、目的ではないのです。
「担保を偏重せず、借り手の事業性を見て貸せ」「顧客の利益を最優先しろ」といった、金融業界から「無理難題」と思われるような要求が次々と出てくるのは、もしかすると、こうした金融庁の「本質」に基づくものなのかもしれませんね。
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