国際宇宙ステーション「きぼう」や小惑星探査機「はやぶさ」の帰還など
明るい話題が連日のようにメディアで報じられる陰で、
私たちの生活や産業、そして安全保障に大きく影響する宇宙政策が滞っている。
今、世界では、米国のGPSに代表される測位衛星システムの主導権争いが勃発。
一方の日本は、GPSを補完し、より正確な位置情報を得るための衛星の実現すら亀の歩み。
コストとメリットから宇宙政策を判断する時が来ている。
2008年に成立した宇宙基本法は、これまで衛星やロケットの技術開発に特化してきた宇宙開発から、宇宙システムを社会のために利活用するという方針に転換し、新たな宇宙開発の目標を設定するものであった。しかし、研究開発を所掌する文部科学省の抵抗もあり、実際はなかなか進んでいない。メディアも山崎直子さんの人物像は大きく報道するが、税金を使って行われる宇宙開発のコストとメリットについて報道することは少ない。しかし、世界の宇宙開発は技術開発から利用へとダイナミックに変化し、特に顕著に見られるのが測位衛星システムである。
GPS依存から脱却
する中国や欧州
測位衛星システムとは、GPSに代表される、衛星から位置を測定するための信号を送るシステムである。米国は1980年代からGPSを運用し、その信号を一般にも無料開放したことで、現在では多くの人がその恩恵に与かっている。しかし、ロシアはGLONASSと呼ばれる測位システムの完成まであと一歩の段階に迫っているほか、欧州、中国でも以下述べるように、自前の測位システム開発を進めている。
なぜ米国のGPSが無料で使えるのに、各国は測位システムを開発・運用するのだろうか。それは、GPSが軍事システムであることに起因する。GPSは一般に開放されているとはいえ、それを運用しているのは国防総省である。したがって、米国とその同盟国が関与する軍事的紛争地域においては、GPSの一般信号の精度を著しく低下させる可能性がある。というのも、GPSの一般信号を敵が利用し、米軍を攻撃するようなことを避けなければならないからである。つまり、自国の軍事作戦を遂行することが優先され、一般向けの利用はおまけでしかない。
そのため、中国はGPSへの依存に大きな懸念を抱き、独自システムを構築する必要があるとの認識を強くし、近く、COMPASSというシステムの構築を目指している。とりわけ、中国海軍は、グアムまでの海域を自国の安全保障圏と設定し、しばしば日本近海を艦隊が通過している。このように軍事的な行動範囲が広くなると、GPSに依存しない測位システムが不可欠となる。
さらに、中国はCOMPASSの受信機を中国製の製品に組み込んで、GPSにはないサービス(測位と通信を組み合わせたサービス)を展開することで、中国製品の国際競争力を強化することも計画している。グローバル市場における中国製品のシェアが高まれば、COMPASSが世界標準となり、世界が中国のシステムに依存することになるであろう。そうなると、中国との関係が悪化した国はCOMPASSの信号を劣化されるなどの不利な扱いを受ける可能性もある。つまり、中国は単に米国のGPSを懸念しているだけでなく、その地位を奪って世界的な影響力を強化する戦略をとっている。