2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2010年6月23日

宇宙戦略本部を
頂点に戦略構築を

 このように、様々な重要性を持つ準天頂衛星であるが、それが実現するには課題が山積している。本来なら3機で一つのシステムとなるはずが、今年8月頃に実験機として「みちびき」が1機打ち上げられるだけで、その後の2、3号機については打ち上げる計画どころか予算もついていない状況にある。この背景には、縦割り行政の弊害がある。もともと、準天頂衛星は官民共同プロジェクトとして経済産業省を中心に進めるはずであった。しかし、準天頂衛星の利用主体である国土交通省はプロジェクトへの関与を避け、予算上の支援も積極的ではなかった。結局、省庁間の対立が調整できず、文科省が「実験機」として1機だけ打ち上げることに同意し、2、3号機については「民間の事業化判断」に基づいて検討する、ということになった。

 この「事業化判断」とは、一言で言えば、準天頂衛星を使ったビジネスニーズが存在するかどうかを判断することである。しかし、準天頂衛星はGPSの補完・補強事業である以上、単独で「事業化」することは極めて困難である。とはいえ、準天頂衛星が利益を生まないから役に立たないという議論は乱暴である。準天頂衛星は社会インフラとして市民生活と国際社会に不可欠なサービスを提供するものであり、事業の効率化やコスト削減効果により、産業競争力の強化や経済成長、歳出削減といった多くの恩恵をもたらすものである。2、3号機の製造・打ち上げにかかる費用はあわせて約700億円であるが、そのコストに見合うだけのメリットがあることを政府も国民も認識する必要があるだろう。

 世界が測位衛星システムを重要な社会インフラとして位置づけ、米国のGPSへの依存から脱却しようとしている時代に、国内的事情で政策が滞っているのが日本の宇宙開発の現状である。宇宙基本法では省庁の縦割りを排除するため、総理大臣を本部長とする宇宙開発戦略本部が設置され、国家戦略として宇宙利用を進める制度を整えたはずである。

 しかし戦略本部には予算を差配する権限が与えられておらず、既得権益を保護しようとする文科省が開発中心のプロジェクトを手放そうとしていない。財政状況が厳しい中、限られた資源を宇宙利用に投入するためには、霞が関の縦割りを乗り越え、国交省を含む利用官庁を巻き込んだ新たな宇宙政策が必要である。そのためにも、「政治主導」で新たな首相と担当大臣がリーダーシップを発揮して、国民生活に不可欠な社会システムとしての準天頂衛星を実現するために動き出すべきである。

◆ 「WEDGE」2010年7月号



 

 

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