もし、張汝京が描いたシナリオ通りにSMICが成長したら、上海が半導体王国になっていたはずである。アナリストの南川明氏は「半導体業界の台風の目となる」とコメントした。
ところが、現実はそうならなかった。SMICの四半期ごとの業績を見てみると、1兆円を投資して劇的に売上高が伸びたようには見えない(図3)。それどころか、2005年以降、赤字の低空飛行を続け、2010年にやっとわずかに黒字計上できた有様である。また、ファンドリーのランキングを見ても、TSMC、UMC、Charteredに迫る気配はなく、2009年に設立されたグローバル・ファンドリーにも抜かれてしまった。
なぜ中国の半導体産業はパッとしないのか
このように中国の半導体産業を概観してみると、PC、スマホ、各種デジタル家電が世界を席巻しているのと比べると、中国の半導体産業は“おとなしい”とすら思えるほどの低調ぶりだった。
これはなぜなのか?中国に半導体が根付かない深刻な問題があるのではないだろうか?
筆者は、2007年に、世界一周調査旅行を行った。その際、SMICを訪問した。たった1回ではあるが、その時わかったことから、上記問題を分析してみたい。
SMICを訪問して、最も大きな違和感を持ったのは、マネージャーは台湾人、技術者のほとんどが日本人だったことだ。中国人の技術者はまったくと言っていいほどいなかった。日本人の技術者に、「なぜ、中国人の技術者がいないのか?」ということを聞いてみた。その結果、以下のような回答を得た。
「第一に、中国人は、家族と少数の親友しか信頼しない。会社に対する忠誠心もなければ、グループに対する協調性もない。半導体の開発や製造には、数十人~百数十人規模のチームワークが必要となる。しかし、中国人は個人主義的であり、チームの中で協力し合って仕事をすることができない」
「第二に、中国人には、何か判断が必要となるような仕事を任せることができない。なぜならば、中国人は、判断する際、もっとも安易な(楽な?)選択をするからだ。簡単に言えば、彼らは、“さぼる”からだ。たとえば、製造ラインのある製造装置で、プロセス開発をさせるとする。日本人の普通の技術者が10枚くらいのウエハを使って条件だしをするところを、中国人は1枚か2枚で終わりにしてしまう。そのプロセスを使って量産ロットを処理すると、瞬く間に不良の山を築くことになる。はっきり言って、中国人はズサンなのだ。したがって、この製品ロットがこの製造装置に仕掛ったら、このレシピを実行せよというように、判断の余地がない単純な仕事しか、中国人には任せられない」
「第三に、それでも根気強く、技術開発のやり方を教えたとする。少しできるようになったかなと思うと、中国人は、もっと給料のよさそうな会社を見つけてきて、さっさと辞めていってしまう。義理人情も何もあったもんじゃない」
結局、SMICの日本人技術者が語ったことによれば、5年ほどSMICに在籍していたにもかかわらず、その間、中国人の技術者は、まったくと言っていいほど育たなかったということである。