韓国大統領選で進歩派(革新)の文在寅氏(共に民主党)が当選した。盧武鉉政権で大統領秘書室長を務め、「盧武鉉の影法師」と言われた人物だ。いつもなら当選から2カ月ほど政権移行の準備期間があるのだが、朴槿恵前大統領の罷免を受けた今回の選挙は空席を埋める「補欠選挙」であるため、当選が決まったら即座に就任である。
朴氏を巡るスキャンダルが燃え上がった昨年10月下旬から半年あまり、空転が続いていた韓国政治が正常な状態に戻る第一歩となるはずだ。ただし、展望はそれほど明るいわけではない。内外の課題が山積しているうえ、朴槿恵弾劾の混乱と激しい選挙戦によって韓国社会の積年の課題である左右対立はさらに激化しているからだ。
語られたのは「文在寅氏を支持するか、嫌うか」
今回の大統領選で最大のポイントは「文在寅氏を支持するか、嫌うか」の選択だった。12月だったはずの大統領選が7カ月も前倒しされたため、文氏以外にとっては準備期間が短すぎた。5年前に野党候補として朴氏に惜敗し、雪辱を期していた文氏が野党側では圧倒的に有利だった。朴槿恵政権の保守与党は分裂・迷走していたから、文氏の優位は誰が見ても明らかだった。
ただ、そこで問題になったのが文氏の支持は広がりを見せない、ということだった。3割程度の支持を固めることは問題ないのだが、支持率がそこからなかなか上がらないのだ。大統領をうかがうような政治家なら最終的な得票率とは関係なく、支持率や好感度が6割や7割を超えるブームの時期を経験するのが普通なのだが、文氏の場合はそういうことが起きなかった。
むしろ目立ったのは「文在寅だけは嫌だ」という人たちの多さだった。理由として挙げられるのは、文氏を含む盧武鉉側近グループの持つ排他的イメージである。盧武鉉政権では理想主義的な若い世代が主軸を担ったが、彼らは理想主義者であるがゆえに柔軟性に欠けた。身内の結束は固いのだが、外部からの批判には過剰なまでに反発する側面があった。