カタールは独自政策を進めるに当たって、中東の衛星ネットワーク「アルジャジーラ」を設立し、イスラム原理主義寄りの報道を続けさせた。しかし、こうした行動は「ムスリム同胞団」などイスラム原理主義組織の勢力拡大を脅威とし、イランのシーア派革命輸出を恐れるサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)の強い懸念を招いた。「アラブの春」以降、カタールへの不満がふつふつと続いていたわけである。
引き金になったタミム首長発言
こうした中で事態は急展開する。カタールのタミム首長が5月23日に行った軍士官学校の卒業式での演説だ。カタール国営通信QNAによると、首長はこの演説で、「ハマス」をパレスチナ人の正当な代表と指摘し、イランについても「湾岸地域の安定のための大国」と呼んだ。
またカタールがトランプ米政権と緊張した関係にあると述べ、トランプ氏が“短命大統領”であるとの見方も披瀝したという。サウジやUAEのメディアがこの発言を連日、大々的に取り上げて反カタール・キャンペーンを展開する事態になった。
しかしカタール側は翌24日になって演説を伝えたQNAのウエブサイトが何者かにハッキングされ、ねつ造された記事が掲載されたものと発表。首長の発言を真っ向から否定した。カタールはその後に国連事務総長に出した書簡で「でっち上げで非難の標的にされた」と主張した。
カタールはこのハッキングを証明するため、米連邦捜査局(FBI)に捜査を依頼。FBIの捜査官がカタール入りして調査を行い、近くこの捜査の結論が出るとされている。ハッキングの真偽は不明だが、「カタールがはめられた」などとする陰謀論も渦巻き、サウジやUAEのカタールに対する深い不信感を浮き彫りにしている。
トランプのお墨付き
今回の動きは引き金がタミム首長の発言だったにせよ、トランプ大統領の5月のサウジ訪問の直後に起きたことと無縁ではない。トランプ氏はサウジでイスラム世界の指導者を前に演説し、テロとの戦いでの結束とイランの脅威を強調した。
ベイルート筋は「サウジやバーレーンはこのトランプ氏の姿勢を反カタールの動きを容認するゴーサインと受け取った。米国のお墨付きをもらったというわけだ」と分析した。バーレーンはトランプ氏のサウジ訪問の直後から反体制シーア派への弾圧を始め、5人が死亡する事態になっている。
トランプ氏は6月6日「アラブの指導者らが過激主義への資金提供に厳しく対処すると宣言した。それはカタールのことを指している」とツイートし、サウジなどによる断交を支持する姿勢を示した。