ハーレーに乗って得られるものとは
5月5日(木)。田舎町のHuckberryで休憩していたら3台のハーレーダビッドソンがやってきた。4人の日本人中年男女のグループだ。4泊5日でハーレーに乗ってラスベガス ➡ モニュメントバレー ➡ グランドキャニオン ➡ ラスベガスを巡る計画だ。日本でもハーレーに乗っており本場でツーリングを楽しもうと仲間でやってきた。
ちなみにハーレーのレンタル料金は1日200ドル。我々が借りたフォードFocusが1日78ドル(保険料など全て込み)なので2倍以上だ。やっぱり“かっこいい”ことをするのはお金がかかる。
しかしいくらお金を出してもお金では買えない楽しさや歓びというものがある。ハーレーに乗って楽しむための必要条件は、まず第一にお金であり、その次に体力・技能・経験が不可欠であろう。
さらに“かっこいい”ことがしたいという若々しい精神がなければ何の面白みもないであろう。その気構えがオーラとなって現れているので、見ている我々第三者も“かっこいい”と羨望を抱くのではないか。
理解不能な異端児、アメリカ大陸横断自転車野郎
ハーレー・チームが出発すると入れ替わりにロサンゼルス方面(西の方角)から自転車がやってきた。マウンテンバイクの後部荷台に小さなバッグを提げている。身長170センチくらいでがっちりした体格だ。このT氏は41才の期間工。今般満期まで勤め上げてボーナスをもらったので3カ月の予定でロサンゼルスからニューヨークへ自転車旅行中。
ロサンゼルスから1周間かけてカリフォルニア州を走破してアリゾナ州の西端に到達したようだ。夜はテントで野営するが炊事道具がないので主食はビスケットを食べたり生でインスタント麺をかじったりという。
英語はまったく分からないので道路標識も読めない。地図も一切持参していない。「太陽を見て東を目指して3カ月自転車を漕げばニューヨークに着くと思いますよ」とコロンブスのアメリカ大陸発見航海も顔負けの大胆さだ。
驚愕したのは自転車である。競技用マウンテンバイクである。曲乗りのためサドルは低い位置に固定されており原則立ち漕ぎである。サドルに座って自転車を漕ぐと大人が幼児用自転車に乗っているような姿勢になってしまう。
私がこんな自転車で長距離を走るのは無理ではないかとやんわり尋ねたら、「これで昨年日本一周したので特に問題ないですよ」と平然としている。
私を含めて“ふつう”の人間は何か目的を達成するためには最も容易で最も経済的な方法と手段を準備して実行に移す。しかしT氏は曲乗り自転車という与件の下で何も改善も改良も考えずに着手実践している。偉大なる自然児なのか、それとも曲乗り自転車による全米横断第一号のギネス認定を狙っているのか。はたまた凡人が想像もできない理由があるのか。摩訶不思議な御仁であった。
⇒(第17回に続く)
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