2024年4月17日(水)

ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2010年8月20日

 動物の頭は体に対して横向きについていますが、人間の頭は体に対して縦についています。動物の場合は、肺からきた空気が直接鼻にいきますが、人間は、首が曲がって鼻と口との交差点が広くなったために、肺からきた空気を口に流し込むことができる。動物のように空気を鼻に流すだけでは、鼻の中は動かないので音の響かせ方を変えることはできないんです。口はものを食べるためにいろいろな箇所が動くので、口の中の空間の大きさや形を変えて、肺からの空気で声帯を震わせて作った音のもとの響かせ方を変えたり、空気の流れを邪魔したりしてさまざまな音色を作り出すことができる。

研究内容を説明する屋名池誠教授。

 とはいえ、作れる音の種類はそんなにたくさんはない。せいぜい数十種類しかない音で、何千から何万という種類の意味を表さなければならないのが我々の言語です。そこで、我々は、一つの音で一つの意味を表すのではなく、いくつかの音を組み合わせることで意味を表します。

 でも、いくつかの音を組み合わせるときに、いっぺんにいくつかの音を表せるわけではない。我々の音声器官は、ラッパと同じようなしくみなので、一度に一つの音しか出せません。ピアノなどとは違って、単旋律楽器なんです。いってみれば、一つしかない出口から何人もの人が一人ずつ順番に出ていくようなもの。外から見れば出てくる人は列をなしているように見える。

 そんなわけで、我々の言語というのは、音が時間的に一列に並んでできているんです。これを線条性といいます。いっぺんにいろいろな情報を伝達できないことは本来デメリットのはずですが、我々の言語はこの線条性を逆手にとってうまく利用しています。

●線条性、というと、リニアモーターカーのリニアですね。

戦時統制下では、右翼や保守主義者により左横書きの排斥運動が発生し、どちらの表記を用いるかが政治的な踏み絵とされていた。(いずれも1943年に掲載された毎日新聞掲載の広告)

——たとえば、iとkとaの3つの音があるとしましょう。これをいっぺんに発音はできません。順に発音しなければならないわけですが、この順序の違いを利用してk-a-iの順で言えば「貝」、i-k-aの順で発音すれば「烏賊」、a-k-iの順なら「秋」。我々は同じ音でも並びをかえることで違う意味を表しているんです。

 単語だけでなく、文でもそう。「大人が3人、子供を遊園地へつれていった」と、「大人が子供を3人遊園地へつれていった」では、音の材料はまったく同じなのに、意味するところは違いますね。3人いるのが、前者では大人、後者では子供。このように我々の言語は順序性を最大限利用してできているんです。

 どんな言語でも、最初は話し言葉だけで、文字は後から生まれてきたもの。言語全体の歴史からみれば、ヒエログラフだって漢字だってたいして古くはないわけ。人が言葉を覚えるときも、まずは話し言葉を覚えて、それから字を覚える。どんなに優秀な子供でも、文字は音声言語が完成してからでないと覚えられません。文字は言語においては二次的なものなんです。ですから音声言語の順序性が言語の基本的な性質になっているんです。


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