マンガの場合は書字方向が構図にも大きく影響します。右から左に読むので、コマの中に登場人物が二人いて話をする場合、先に台詞を言うのは右側にいる人でなければならない。コマの中でも右から左に時間が動いているんです。
これだけ左横書きが普及したいま、縦書きが根強く残っているのはマンガと小説ぐらいです。マンガの場合は構図と深く関わっているので、今後も書字方向は変わらない可能性が高いと思います。
ただ、問題は日本マンガが海外に進出するとき。「少年ジャンプ」のアメリカ版は日本と同じ右綴じでしたが、巻末には「ここは表紙ではない」と明記して、本の読み方の説明も書かれていました。フランスでは出版社が、同じマンガを右綴じと左綴じの両方を出してみたところ、日本と同じ右綴じのほうが売れたので、いまは右綴じがメインです。綴じ方も含めて日本文化だと捉えられたのでしょうね。
オタクだけを対象にするならそれでいいでしょうが、もし市場を広げたいのなら、コマの配置方向、綴じ方は大きな問題です。もし現地の市場に合わせて左綴じの横書きにしたとすると、それが日本国内のマンガにも波及するかもしれません。そうしたら一気に日本のマンガも横書きになるかもしれない。
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●新聞はどうなりますか。朝日新聞が月2回の差し込み紙面「GLOBE」を横書きでやっていますが。
——新聞の場合はマンガと違って書字方向が内容には関係してません。いってみれば入れ物ですから、世の中に横書きの文章が増えればもっと一気に横書きになるかもしれませんね。韓国の場合はそうでした。縦書きだったのが1990年代に一気に横書きに変わった。
国語の教科書なんかも、社会で横書きが普通になったら、すぐにそれに合わせてくるんじゃないかと思います。韓国では国語の教科書も今では横書きです。
●気づけば現代は横書きばかりですね。パソコンでも携帯電話でも……。
——最初の日本語ワープロが横書きを採用したのは大きかったと思いますね。昔から欧米ではビジネスレターはタイプライターで打つものでしたが、日本にはそんなものはなかった。複雑な漢字をやめてしまえば日本の文化はもっと発展する、と主張するカナモジカイという団体を創立した山下芳太郎という実業家が、戦前カタカナのタイプライターを作らせて、伊藤忠や森下仁丹といった大企業に広めたんですが、このときにカナ文字の横書きを提唱したんですね。
そんな流れで、ビジネスの世界では、大企業を中心にはやくから横書きが定着しました。最初のワープロを売り出すときに市場調査をして、横書きのほうがいいだろうということになった。最初は個人用に売り出すつもりだったようですが、値段が百万円をこえて高すぎて無理だった。ビジネスユースで売り出すために、横書きをデフォルトにすることになったそうです。