定年バックパッカー海外放浪記

2017年7月30日

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高野凌 (たかの りょう)

定年バックパッカー

1953年、横浜生まれ。神奈川県出身。大学卒業後は商社、メーカー勤務を経て2013年定年退職。2014年春から海外放浪生活を始める。放浪歴は地中海、韓国、インドシナ半島、インドネシア、サンチアゴ巡礼など。サラリーマン時代は主として海外業務に従事。ニューヨーク、テヘラン、北京にて海外駐在を経験。身長170センチ、57キロ。獅子座。A型。現在2人のご子息は独立し、夫人との2人暮らし。孫1人。

小児誘拐多発地帯

 5月11日(水)。サンディエゴから途中寄り道しながらインターステートハイウェイ8号線を東に走る。メキシコ国境近くの砂漠地帯を延々と走る。たまに砂漠の真ん中にカジノがある。平日の昼間なのにカジノの駐車場には数百台近い車が停まっている。

ニューメキシコのルート66旧道沿いの廃墟と化したホテル

 さらに東進して砂漠の小さなオアシスになっているハイウェイの休憩所で給油&トイレを済ます。休憩所の掲示板に何やら子供の顔写真が並んでいるポスターが貼られている。誘拐された子供たちの顔写真であり情報提供者には謝礼を支払うと書いてある。

 中年のメキシコ系の女性が「酷いことだわ」(awful!)と顔をしかめた。毎年平均して6人くらいの子供が行方不明になっている。主に貧しいヒスパニック、メキシコ系、黒人の子供たちが誘拐されているという。背後には国際的人身売買のシンジケートが暗躍しているという。

砂漠の中の町、El Centroの木賃宿

 5月11日(水)。午後3時頃El Centroの町に到着。この町は昔メキシコとの交易で栄えたらしく中心部の旧市街と思われる一帯には古いホテルや昔の店舗が並んでいるがよく見ると大半は無人で廃墟と化している。現在ではハイウェイと旧道が交差するあたりにモーテル、スーパー、ガソリンスタンドなどが営業しているだけである。

カリフォルニア南部のMAKE AMERICA GREAT AGAINのトランプ氏支持ポスターを掲げた邸宅

 旧市街でやっと見つけた比較的大きな三階建ての古いホテルに入った。石造りの立派な建物であり外部から判断すると昔は高級ホテルであったと思われる。

 重い木製の回転ドアを押して中に入るとなにか食べ物が腐ったような不快な臭気が漂っている。用事があれば2階へ行けと張り紙がある。2階の廊下の両側に部屋が並んでいるが廊下はゴミが散乱している。西日をうけて通気性の悪い建物の内部は淀んだ空気が充満。

 ランニングシャツをだらしなく来た管理人とおぼしき中年男がソファで寝転んでテレビを見ている。「部屋は全てシングルでエアコンはなく扇風機のみ。トイレ・シャワーは共同。それで一日27ドル」とのご託宣。

 念のため部屋を見せてもらうと紺色の不潔そうなシーツが掛けられ中央部が凹んだベッドに年代物のテレビと扇風機があるだけだ。それでもけっこう宿泊客がいるようでテレビの音や話し声がする。

 管理人の話ではメキシコ人の労務者ばかりだという。メキシコから流れてきて安定した仕事が見つかるまでこのホテルに滞在する。二週間以上の長期滞在者には割引を適用。毎朝マイクロバスが来て宿泊者をピックアップして近くの農園や道路工事現場などに連れて行くという。メキシコからの違法移民労働者を受け入れる木賃宿なのだ。

ベトナム移民はヒラリー支持、断固トランプ反対

 5月14日(土)。カリフォルニア州南部の砂漠地帯の真ん中に位置する湖“Salton Sea”沿岸をドライブ。“砂漠の砂浜”(Desert Beach)という集落に立ち寄る。雑貨屋、食堂兼酒場、ランドリー、モーテルが一軒ずつ並んでいるだけの限界集落だ。

 ビーチ沿いには別荘や住宅が十数軒並んでおり比較的生活に余裕のある人々も住んでいるらしい。目立つ場所に“Trump make America great again”とトランプ支持のプラカードが貼ってある住宅が数軒ある。

旧サイゴン出身のベトナム系米国人3人組とオジサン

 砂浜では十数人が魚釣りをしている。中年白人男性が多いが、3人のアジア系中年がいた。3人はロサンゼルスの郊外に住んでおり年に数回泊りがけでこの湖に釣りに来るという。

 彼らはベトナム戦争後に米国に逃れた旧サイゴン出身の南ベトナム系の移民であった。合法的移民として移住してきて米国市民権を獲得し税金も納めてきた。従ってトランプ氏の指摘する非合法移民ではないが人種・文化・宗教の多様性に対して否定的でマイノリティーを排除するトランプ氏には断固反対だと力説。

 彼らによるとカリフォルニア州を中心にベトナム系移民は200万人もいるという。3人のなかの1人は今年51歳になりリタイヤしたという。彼は子供の頃一家で米国に移住。高校卒業後働き始め、結婚して子供が出来てからは子供の教育資金を賄うために過去20年間昼間の仕事の他に夜間のパートタイムをするというdouble job生活を続けてきた。

 子供も独立したので仕事を辞めたという。彼の生き方は成功するアジア系移民の経歴の典型ではないか。貧しい移民として米国に辿り着き、勤勉に働いて子供に高等教育を受けさせる。そして子供の世代で米国の中流階級入りをするというパターンである。

 逆の見方をすれば20年間昼夜二つの仕事を掛け持ちして働くという超人的な努力をしなければ貧困の連鎖を断ち切れないというのが超格差社会アメリカの現実なのだ。

(完)

  
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