医療や食の改善からノラ猫を含めペットの高齢化も進んでいる。人と猫がいっしょに老いる時代になったといえそうだ。どちらが先に逝くにしろ、時には自分と猫の行き先を真剣に考えてみるべきかもしれない。そこで、「猫と人の終活勉強会」を開いている東京キャットガーディアン代表で『猫を助ける仕事』(光文社新書)の著書もある山本葉子さんに(以下、敬称略)話を聞いた。
ノラ猫の生死
JR大塚駅から徒歩2、3分の都会のど真ん中のマンションの5階にまさか100匹もの猫が里親を待つ保護猫カフェがあるのは、意外だった。寄付金の1000円を支払い、手を消毒し、中へ入ると、キャットタワーがある部屋で、山本さんは猫のゲージに囲まれて電話に応対していた。誰かの相談に矢継ぎ早に受け答えしている。
「申し訳ありませんが、今はひきとれません。うちは300を越える数いるから」、「譲渡の方策は、他の保護猫団体に電話を片っ端からかけてみる」、「週末の猫の譲渡会に出す」、「チラシを数枚友人に配る。そのとき猫の写真が大切です」
電話が終わり、聞いてみると、猫の飼い主が末期がんに侵され、近所の方が譲渡したいと電話をしてきたのだという。このような相談の電話が始終かかってくるのである。
さて、最初に筆者が山本さんに聞いたのはノラ猫の終活である。東京都内は福祉保健局の試算によると、飼い猫105万頭、ノラ猫は推計11万頭だという。ただし平成10年と随分前の調査なので誤差が大きいかもしれない。
筆者の朝夕の散歩道に荒川遊園、公園、神社、隅田川の遊歩道があり、猫数匹が暮らし、餌やりのおじさんやおばさんがいる。家でペットを飼っていない私には、これらの猫はどこからきてどこへいくのか、つまりその生死が疑問だった。そこで、「外猫は4、5年しか生きないといいますが、どうでしょうか」と質問の口火を切ってみた。
「いや、今はもっと生きますよ。もちろん、どんなフードをもらっているかということによりますが。たとえばトルコやモロッコには街に猫がたくさんいて観光客も触れあっています。一見幸せそうに見えます。でも不妊手術なんかしていません。ノミやダニもいます。痩せている子がいて短命です。ペットフードではなく、人間の食べ物を食べているからです。逆に短命なので、猫が増えすぎてこまるといった社会問題にはなりません」
なるほど、公園で生まれたり、そこに捨てられたりした場合、幼猫のときの生死の境目を越えるともっと長生きするのかもしれない。えさやりの方々が主に与えているのは、昔のような人間の食べ残しやおかかご飯ではなく、市販のキャットフードである。子どもが母親といっしょに猫に餌をやっている光景はほほえましい。けれども、保護団体の考え方は、外猫をなくすことだという。それには理由がある。
「バキューム効果という言葉があるんです。ある区域で猫が増えすぎて、たとえば殺処分する。その地域は一時猫真空状態になる。でもいつの間にか他の区域の猫が来て、そこに餌やりさんがくる。見かねてご飯をあげる。また、一気に猫が増える。猫は撲滅できても餌やりさんは撲滅できません。地域猫はすべて家猫にする間の経過処置です。猫は物凄い繁殖力なんです」
猫は年に何度か出産でき、一度に4~8頭の子を産む。環境庁の試算だとペア猫がいれば、3年後には2000頭にもなってしまう。7万9745匹にもなる殺処分(平成26年 全国)を避けるためにも、不妊手術が必要なのは自明である。なお、地域猫とはボランティアや住民により共同管理している外猫のことをいう。
荒川の猫たちは、手術しているときいているが
行政が行っているのだろうか?
「誰かが見かねて個人の持ち出しでやっているのでしょう。動物愛護推進員が助言しているのかもしれません。私も推進員ですがとくに行政からの支援があるわけではありません」
動物愛護推進員とは都道府県が公募しているボランティアである。その目的は、犬・猫等の動物の愛護と適正な飼養について住民の理解を深める。住民に対し、その求めに応じて、犬・猫等の動物がみだりに繁殖するのを防止ための手術について助言する。犬・猫等の動物の所有者等に対し、その求めに応じて譲渡のあっせんなどの支援をする、などである(環境省)。
区によって違うが筆者が住む荒川区の場合は、ノラ猫の不妊手術にはメス猫 1万7000円(妊娠中 2万5000円)、オス猫 1万円の助成金が出る。
「家猫と違い、ぴんぴんした猫はある意味野生ですから、すぐ逃げてしまいます。手で捕まえるのは難しい。興奮しやすいし、手術するにも、神経麻酔をうまく使う必要があります。外で捕まえるために、うちも行政と同様に捕獲器を貸し出します。でも、中には猫を持って行くような悪い人がいますし、こんな暑い時期は脱水症状で5、6時間で死んでしまう。だから、捕獲器を使うときは、きちんと見回りをしてもらいます」
東京都の保険局によると、主な保護対象となる、つまり譲渡できなければ殺傷処分となるのは、幼猫、怪我をした猫、病気の猫、老衰の猫などで、それらの猫の多くは最初から生きながらえるのに難しい状況にあるという。平成27年、都内では殺処分724匹、譲渡469匹である。また実際に外で死体を見つけた場合は、清掃事所の担当が引き取りにきてくれ、火葬され、東京都の持つ共同墓地に埋葬されることになる(荒川清掃事務所)。
筆者は路上生活者が死去したときどうなるかを何度か取材したことがあるが、基本的に猫も人間と変わらない。