2024年4月24日(水)

塚崎公義の新・日本経済入門

2017年9月5日

財政赤字は、なぜ減らないのか

 日本の財政は、なぜこれほどの赤字なのでしょうか。「政治家が人気取りのために選挙区で公共工事をやるから」というのは昭和の感覚です(笑)。公共投資は歳出の数%を占めるに過ぎませんから、仮にこれを全廃しても、財政赤字は巨額のままで、焼け石に水なのです。

 歳出の内訳を見ると、社会保障が33%、地方交付税交付金が16%、国債費が24%となっており、削るのが困難な3項目だけで税収等を上回ってしまっています。極端な話として公共投資、防衛費、その他諸々の経費を一切払わなかったとしても、財政収支は赤字なのです。「政府がバラマキをしているから赤字だ」というわけではないのです。

 そうだとすると、財政赤字を本格的に減らすためには景気を良くして税収を増やすか増税して税収を増やすしかありません。景気は、すでにかなり回復していて、企業収益も過去最高水準ですし、失業率もこれ以上下がらない所まで下がって来ていますので、景気の更なる回復で税収を大幅に増やすというのは限度がありそうです。

 それならば、増税をすれば良いのでしょうか? 「増税は不人気な政策なので、政治家が嫌がるから難しい」のでしょうか? もちろん、それもありますが、本当の原因は別の所にあるのです。

 消費税率が5%から8%に引き上げられた時に、国内の景気はかなり落ち込みました。しかも、一時的だと思われた落ち込みが、人々の予想を超えて持続したのです。その時は、なんとか景気が後退せずに回復を続けてくれたから良かったのですが、少しでも大幅すぎる増税をすると、景気が悪化してしまうのです。景気が悪化してしまえば、税収は落ちますし、景気対策が必要になりますから、せっかく増税をしても水の泡になってしまうのです。筆者は「景気は税収という金の卵を産む鶏」だから、性急な増税で景気を殺してはならない、と強く思っています。

 財務省は、とにかく増税するしかない、と近視眼的に考えているようですが、多くの政治家も筆者と同様の思いなのでしょう。どちらが正しいのかはわかりませんが、財政再建が容易でないことだけはご理解いただきたいと思います。

財政は破綻しない、と筆者が考える理由(補論、少数説)

 日本政府の借金は巨額ですが、本当に破産することはありえません。最後は日銀に札を刷らせて借金をすべて返済してしまえば良いからです。もちろん、そんなことをすれば超インフレになりかねませんから、それは禁じ手とされていますが。

 禁じ手を使わなくても、財政は破綻しないと思います。まずは頭の体操として、日本の少子化が進み、「一人っ子と一人っ子が結婚して一人っ子を産む」ことで1世代毎に人口が半減していくとしましょう。数千年後には日本人が1人になります。その人は、個人金融資産1800兆円を相続します。一方で、日本政府から「日本政府の借金を返すために増税する。1000兆円払え」と言われます。彼(女)は、1000兆円の税金を払い、残った800兆円で優雅な人生を送るでしょう。そうです。何も問題は起きないのです。最後の2人になったとき、金持ちと貧乏人が喧嘩するのか結婚するのか、わかりませんが(笑)。

 「財政赤字は、我々世代の借金を返済するために将来世代に増税するのだから、世代間不公平だ」と言われます。その限りでは正しいのですが、遺産相続まで考えれば、世代間不公平などないのです。あるのは遺産が相続できる子とできない子の「世代内不公平」だけです。

 それならば、相続税を増税して、最後の1人が払う予定の税金を途中段階で徴収すれば良いでしょう。筆者のオススメは「配偶者も子も親もいない被相続人の財産は、高率の相続税で召しあげる」という選択肢です。子供のいない人が増えていますから、数十年後の税収増が楽しみです。今の法律では兄弟姉妹が相続するのですが、それが相続できなくても、兄弟姉妹の痛税感は軽いでしょうから。

 今ひとつ、今後は少子高齢化による労働力不足が深刻化しますから、増税が容易になります。今は「増税をして景気が悪化したら失業者が増えてしまう」という理由で増税が難しいわけですが、本格的に労働力が不足する時代になれば、「増税して景気が悪化しても失業が増えないから、気楽に増税できる」ようになるでしょう。さらには、「景気が良過ぎて労働力不足が深刻化してインフレが心配だから、増税で景気を悪くしよう」ということも起きるかもしれません。

 このように、途中で増税できれば良いですし、できなくても最後まで破綻はしないので、安心しましょう、というのが筆者の予想です。かなり少数説だとは思いますが(笑)。

  
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