2022年8月10日(水)

Wedge REPORT

2017年9月15日

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藤川大樹 (ふじかわひろき)

東京新聞記者

東京外国語大学外国語学部卒業。2004年、中日新聞社入社。中日新聞社東京本社(東京新聞)経済部、外報部などを経て、現在は社会部。近著に『ミャンマー権力闘争 アウンサンスーチー、新政権の攻防』(共著、KADOKAWA)がある。

事件増加の背景に空き家率の上昇

 「地面師詐欺事件では、その筋のプロたちが犯行時にバッと集まり、ミッションを遂行する。まさに『オーシャンズ11』の世界ですよ」

 警察幹部は、地面師グループの鮮やかな手口を、皮肉交じりにそう例えた。オーシャンズ11は、犯罪のスペシャリスト集団がラスベガスの地下金庫から現金を盗み出すアメリカ映画である。

 地面師グループは司法書士や不動産ブローカーを巻き込みながら、高く売れそうな土地を探し出して登記簿を取得。偽造の印鑑登録証明書や運転免許証を用意し、被害会社に巧みに話を持ち掛け、ニセ地主役の共犯者を真実の土地所有者と信用させる。

 標的となる土地をどうやって探すのかは地面師グループの〝企業秘密〟で、今回の取材で直接の証言は得られなかった。警察幹部は「土地を探す人間がおり、管理が行き届いていない土地や空き家を足で探している。めぼしい土地の登記を取り、『この土地、要りますか』と声を掛け、引きがあれば、詐欺を実行する」と解説する。

 地面師詐欺の犯行態様は極めて組織的で、計画的だ。売却しても気付かれにくい土地を探す者、偽造書類を用意する者、ニセ地主役を見つくろう者、ニセ地主、ニセ地主と行動を共にする後見人役─。

 地面師グループは複数の人間が細かく役割を分担する。これが警察幹部をしてオーシャンズ11と言わしめる由縁である。仮にニセ地主が捕まっても、他のメンバーは「本物の地主だと思っていた」と、まるで被害者を装って関与を否定するため、全容解明へのハードルが高い。ニセ地主は、言わば末端の使い捨てで、全容を知らされていないケースも少なくないという。

 警察も全ての案件を解決できるとは限らず、あるベテラン刑事は「地面師事件はプロ(の捜査員)とプロ(の詐欺師)のガチンコ勝負だ」と語気を強める。

 今回の事例以外にも、新宿区や港区、練馬区など都内各所で地面師詐欺の被害は報告されている。地面師の暗躍が目立つようになった背景には、「空き家率」の上昇がある。

 総務省が5年に一度実施している調査によると、高齢の親世帯が亡くなった後、相続した子どもが住まないなどの事情から、全国の空き家の割合は1998年以降、右肩上がりで上昇している。直近の2013年の調査結果(総務省統計局)では、全国の住宅総数は6062万8600軒で、このうち空き家は819万5600軒。空き家率は13・5%に達する。警察幹部は「こうした土地は無断で売買されても所有者が被害に気付きにくいため、狙われやすい」と指摘する。

 2020年の東京五輪・パラリンピック開催を控え、東京都内の公示地価が4年連続で上昇する中、「今後も被害が増える恐れがある。土地の所有者は定期的に登記簿を確認してほしい」と警鐘を鳴らしている。

  
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◆Wedge2017年9月号より

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